質量標準分銅とはかり検査
             ~0.1mg分銅からキログラムの新定義まで~
                                  株式会社  村上衡器製作所 代表取締役  村上 昇氏     
1.企業情報
  ①株式会社 村上衡器製作所
   創業    1906年(明治39年)
   設立    1949年(昭和24年)
   資本金   1,000万円
   所在地   〒535-0005 
          大阪市旭区赤川2-10-31
         TEL:06-6928-7511 FAX:06-6928-1099
   従業員数  28名(2023年2月)

  ②主な事業
   ・天秤製造     機械式上皿天びん、上皿自動天びん
   ・分銅製造     JIS規格、標準分銅 
   ・質量校正・検査 JCSS分銅校正、JCSSはかり校正、一般はかり検査

2.質量標準の製造
  ①キログラムの定義


  ②質量標準トレーサビリティ体系図
    ・改訂前

   ・改訂後


   ③キログラム定義改正がもたらすもの
    ・各国で、プランク定数に基づくキログラムを実現(今の所、4カ国)
     日本・ドイツ    X線結晶密度法
     アメリカ・カナダ  キッブルバランス法
    ・日本国キログラム原器は、原器としては無く、非常に優秀な{分銅}として、
     国内の質量標準の維持・管理に大きな役割を果たす
   ④微小質量計測技術の発展
     非常に小さなモノの重さを正確に測定する事が原理的には、可能となった。
     ・創薬、分子生物学、薄膜評価への技術貢献
   ⑤分銅の役割

   ⑥JIS B7609:2008 「分銅」の概要
     質量の公称値が1mgから5000kgまでの分銅について、9つの精度等級に分かれて規定されている。
     ・最大許容誤差         ・磁性                 「規定」
     ・形状               ・密度                  ・試験方法
     ・構造               ・表面粗さ条件             ・校正方法
     ・材質               ・調整                 「参考」
                        ・表記                  ・形状及び寸法
                        ・格納容器               ・統計的管理
    精度等級が上がるにつれて・・・・
     ・最大許容誤差      →ゼロに近づく
     ・磁化・磁化率       →ゼロに近づく
     ・密度            →8.00×10³/m³
     ・表面粗さ条件       →鏡面に近づく
     ・構造・表記        →質量変化を誘発しにくくなる

       
   ⑦分銅の協定質量に対する拡張不確かさU(包含係数K=2)は、
     最大許容誤差δmの1/3以下でなければならない
          U ≦ 1/3 δm
     分銅の協会質量mは、公称値moに対する隔たりが最大許容誤差δmと
     拡張不確かさUとの差より大きくなく、以下の範囲になければならない。
          moー(δmーU)≦ m ≦mo+(δmーU)
     この関係を確認するために、協定質量及びその不確かさを求める
     「製造」規格の中に「計測・校正」の概念である

        「不確かさ」が規定されている!
      製造工程
       ・質量調整  
          ⅰ)電子天びんの指示値を直読 
          ⅱ)簡易的な等量比較校正
          ⅲ)半完成品状態で保管(経時や温湿度で値が変わるため)
          ⅳ)受注後に製品化
       ・質量検査
          国家標準とトレーサブルなワーキングスタンダード分銅を用いた等量比較校正
          F級分銅 :ABBA法・1反復
          M級分銅 :AB・・・BA法・1反復
 製造工程  検査項目  検査対象  検査基準
 ①材料
  受入検査
 磁化率
  密度
 試験片
 ミルシート
   JIS規格

 ②旋盤加工
 外形寸法
 ねじ部
 外観
 抜き取り
 抜き取り
  全数
   社内作業標準規定
 ③表面研磨
  質量
 表面粗さ
  全数    社内作業標準規定
   社内作業標準規定
 ④表記
  外観   全数    社内標準限度見本
 ⑤質量調整
  質量   全数    JIS規格のMPEの
   -1/3~+1/2
    
⑥識別
   マーキング
   外観   全数    JIS規格
 
⑦特性評価
  磁化
  磁化率
  表面粗さ
  全数    JIS規格
⑧質量検査
   質量   全数    JIS規格



   ・質量調整


   
   Part Ⅱ
    
  
   

  ⑧サブミリグラム分銅の製造
   ・開発の経過
    はかりの計量管理は、「分銅」で実施する事が原則
    「分銅」の規格(OIML R111 / JIS B7609)で規定される
    分銅の公称値 の範囲 :5000kg~1mg
    1mg未満の測定能力を持つ計量器は多数存在する。
   「課題」 
    1mg未満の質量範囲(サブミリグラム領域)の計量管理を直接的に分銅で実施できない
   ・製造


  ・最大許容誤差と不確かさの決定



  
  ⑨「調整」と 「校正」の違い
   ・調整(Adjustment):分銅の質量をJIS規格が規定する最大許容誤差以内になるように
                調整材等を用いて変更すること
   ・校正(Calibration) :分銅の質量を、上位の精度等級の分銅と比較して正確に知ること。
                質量の変更は実施しない

 3.分銅の校正と管理限界値
   ①
   ⅰ)一般計量器ユーザー(JCSS)
   ⅱ)特定計量器ユーザー
     
   特定標準器
日本国キログラム原器を含む
<一般計量>    1mg~20kgの分銅類 <特定計量>
特定二次標準 特級基準分銅
常用参照標準 一級基準分銅
二級基準分銅
実用標準器 三級基準分銅
  
    ②JCSS校正証明書
 
 
   ・校正結果

 公称値  識別記号  印
 分銅に与えられた名目上の値  管理の為に付される記号や数字  同一公称値の分銅を識別す為の印

協定質量  拡張不確かさ 
 一定の協定条件に於いてつり合う参照分銅の質量 協定値のばらつきを特徴づけるパラメーター 
        「校正結果の有効期限」という概念が無い
    ・校正の条件
       協定条件、不確かさ条件、校正実施条件
    ・連続性
     ⅰ)今回の校正結果を前回の結果と比較して、管理限界を超える変化がなければ、
        前回~今回の期間(過去)の分銅管理(→はかり管理・製品管理)に問題が無い
     ⅱ)未来の分銅管理・はかり管理・製品の計量の安全性や結果の保証は出来ない
   ③校正結果と規格適合性判断(校正結果の利用)




  ④なぜ精密測定器には検査校正が必要なのか?


  ⑤分銅校正の必要性 

  


  ⑥分銅を管理する際の管理限界値の数値をどの様に決めれば良いですか?
   (例)精度等級E2級 200gの分銅
      対応するJIS規格での最大許容誤差 ⇒±0.3mgを用いて
      管理限界:±0.300mgに設定することをお薦め
    最大許容誤差を管理限界値に設定する    
     ⇒ JIS規格に対する適合性判断を分銅管理の基準に採用する

4.はかり検査に用いる分銅
  ①「分銅」による「はかり」管理
   理由は、
   ・「分銅」が質量の計量標準
   ・「はかり」は、質量の計測器であり、はかりの指示値は絶対出ない
   ・「分銅」も「はかり」も、使用中変化(経年変化)を起こすが、「分銅」の変化は、
    「はかり」の変改に対して比較的小さい

  ②「分銅」による「はかり」管理の注意点
   ・国家基準にトレーサブルな計量標準による管理体系を構築する
   ・「分銅」自体の質量管理を確実に実施する
   ・「はかり」の仕様や「計量」の要求精度に見合った分銅を選ぶ
     どのような分銅?
    「はかり」検査用分銅の決定手順(はかりの仕様より決定する例)
    ⅰ)分銅の公称値を決定する
       日常点検 → 普段使用している質量レンジ近傍の公称値
       定期検査 → はかりの秤量、または、秤量の1/2近傍の公称値
    ⅱ)分銅の精度等級を決定する
       分銅の最大許容誤差が、はかりの目量の1/3以下になるように精度等級を選ぶ
   ・分銅の選定
    (例)電子天秤(秤量:220g 目量:0.001g)の日常点検
       日常業務では、100gの計量を主としている
     分銅の公称値   日常点検:日常の計量と同じ質量 → 100g
                 定期点検:秤量近傍の質量     → 200g   
     分銅の精度等級  分銅の最大許容誤差が
                 はかりの目量の1/3以下    → 0.001g/ 3=0.00033g
      この条件を満たす分銅    ⇒   公称値   100g  精度等級E2級        
                             公称値   200g  精度等級E2級


  ③分銅の保管と取り扱い
   ・保管
    ⅰ)保管場所は、移動時の環境変化や事故を防止するために出来るだけ使用場所の近くに設定
    ⅱ)分銅は、汚染・腐食などが生じない雰囲気中で、湿度が低く空気の流れが少ない密閉された状態で保管
    ⅲ)保管場所と使用場所が異なる場合は、分銅を使用場所の温度に充分馴染ませてから使用する
   ・取り扱い
    ⅰ)清潔な用具を用いる(ピンセット、フォーク、クリップ)
    ⅱ)手で扱う場合は、素手では触れずに、よく脱脂した清潔な手袋を使用
    ⅲ)分銅の位置を変えるときは、分銅を持ち上げて、決してずらさないこと
    ⅳ)使用前には、分銅表面に異物・じん埃等が無いかを確認する
      あったら、分銅表面状態の変化に留意しながら取り除く
      洗浄方法 :乾式は、ハケ、ブラシ、クロスによる払い落とし
              湿式は、アルコール、蒸留水による払い拭き

   第2部   自動補足式はかりの検定
                                        株式会社  寺岡精工 知的財産規格部  和田俊之氏

1.検定の申請等に係わる内容
 ①自動はかりの規制
   2017年に計量法改正により、「自動はかり」は、質量計の一部となる「特定計量器」として、追加された。
   規制対象となるのは、「自動補足式はかり」「充填用自動はかり」「ホッパースケール」
   「コンベアスケール」の4機種。これにより、形式承認及び検定が必要
  <既に使用されている自動補足式はかり:「既使用」>
    2024年3月31日以前から取引・証明に使用されている製品は、2027年3月31日までに検定に合格しておく
  <新たに使用されている自動補足式はかり:「新規」>
    形式承認番号があり、2024年4月1日以降、納品される製品は、2024年3月31日までに検定合格が必要

   ・非自動はかりと自動補足式はかりの検定に関わる規制の比較
  非自動はかり  自動補足式はかり 
 検定の実施者   指定製造事業者又は、計量検定所  指定検定期間
 検定証印+α 
 検定証印(基準適合証印)+検定年月  検定証印+有効期限(年/月)
 適管用検定証印      無し      有り
 形式承認表記   第DXXXX号   第ACXXXX号
 2年に1回の義務的検査  定期検査(使用交差)  検定(検定交差)
 検定ひょう量制限    無し   ひょう量5kg以下
 検定に必要な設備  基準分銅(実用基準分銅も可能) 基準分銅(実用基準分銅も可能)
管理はかり(目量の1/10)
器差検定用の商品又は疑似材

     非自動はかり
      有効期限は、無し
      検定後は、2年毎の定期検査を受ける必要がある
      定期検査に合格している限り、継続使用が可能
     自動はかり
      検定に有効期限
      有効期限は、検定を受けた年の翌年4月から起算して、通常は2年、適管は、6年


   ②検査申請から終了までの流れ
    ・事前確認
     申請者と検査機関で、検定実施に必要な確認を行い、検定可能かの判断
    <聞きたい情報>
      申請者情報(住所、氏名)
       実施場所
        適正計量管理事業者の有無
         「一般器物」と「適管器物」では、「検定証印」が異なる
         また、適管の場合、証書のコピー
      、希望日、時間帯や制限事項
        休日や深夜?
        3時間ぐらいの時間
       ・制限事項
        白衣・帽子・眼鏡等の着用の有無
        衛生上の証明書の要否(PCR検査等の証明書)
        写真撮影の許可
        管理はかり用コンセントの有無
      検定対象物の情報(メーカー名、形式、精度等級、ひょう量、目量)
      ・自動はかりの器種
        自動はかりは5器種あるので、「自動補足式はかり」であることを確認
      ・精度等級
        自動補足式はかりの「自動重量選別機」のカテゴリーはX?
        「質量ラベル貼付器」又は「計量値付け機」のカテゴリーはY?
        精度等級によって、判定を含む試験内容が異なる
      ・使用計量範囲(ひょう量5kg以下の確認も含む)
        カタログ表示であれば、ひょう量と考えるが、使用者もしくは製品を確認すると、計量範囲が限定された
        「使用計量範囲」の場合がある(加重ポイント確認)     
      ・使用最大動作速度
        銘板には「最大動作速度」としたコンベヤの最大速度を表記してます
        何も無ければ最大コンベアスピードで実施、限定した表記があれば、
        そのスピードで検定を実施
      ・使用実態の把握(何を計量しているか)
        疑似材の幅、高さ、材質、個数等を検討し、どちらが準備するか確認  
        何を? 液体?固体?
      ・動補正の有無(新規の場合のみ)
        動補正のかけ方(限定した動補正)次第で検定項目となる
      ・計量方式(新規の場合のみ)
        計量時の動的か静的かで検定項目が異なる
      ・「風袋装置」の有無(新規の場合のみ)
        該当する場合に風袋の検査
      ・銘板等の表記対応
        特に既使用は、必須の表示事項に対応してもらう必要がある
        銘板等の作成
      ・実目量的な表示
        検定では検査目量の1/10程度の表示が無ければ評価出来ない場合がある
        (例)検査目量1gであれば0.1g単位での表示
      ・測定した計量器のログ機能
        あれば検定実施時間が大幅に短縮
       
    ・見積発行
     機種・実施場所・実施日時等を検討し、申請者へ「見積書」を提示
      頂いた情報により、以下の項目から費用を算出
      ・検定実施場所 ⇒ 移動費用(ガソリン代、高速料金、宿泊代等の実費
      ・検定の時間帯 ⇒ 検定手数料(深夜・休日は、割り増し料金)
      ・製品仕様    ⇒ 検定手数料(ひょう量によって異なる)
      費用算出後、見積書としてメール
       (検定手数料は、国に申請・決定してますので、割引出来ません)
自動重量選別機 600g以下 56,700円
(カテゴリーX)
600g以下超え 60,700円
質量ラベル貼付器 600g以下 44,000円
計量器値付け機
600g以下超え 48,000円

    ・検定申請
     申請者は、問題が無ければ「検定申請書」を検定実施機関に提出
    ・検定実施
     現地で検定を実施
      予定した日時j、場所に検定員が伺います。
      移動に関して基本的には、車を想定してますので、駐車場の確保をお願いします。
      検定場所に対しての注意・制限事項があれば、事前確認時にお願いします。
      検定を実施し、合格の時は「検定証印」を付し、不合格の場合「不合格票」を渡します。
        (検定に合格しないと、取引に使えません)
    ・請求書発行
      検定実施後、後日請求書を発行
      見積書の移動費などの実費部分については概算ですので、若干の差異が発生します。

2.自動補足式はかりの検定につい
 ①検定概要

 検定対象  検査目量10mg以上、目量数100以上、ひょう量5kgの自動補足式はかり
 検定の申請  製品の使用者
 実施主体  行政から指定された指定検定機関(又は産業技術総合研究所)
 検定の必要なもの  ・検定申請書
 ・検定手数料
 ・検定に使用する荷重物(現物商品や疑材料)
 検定実施時間  1~2時間(1機種当たり)
 有効期限  通常2年。ただし適正計量管理事業者は、6年
   検定項目は、以下の状況によって異なります
      ・自動重量選別機(カテゴリーはX)
      ・質量ラベル貼付器・「計量値付け機(カテゴリーはY)
      ・新規(形式承認表示があるもの)
      ・既使用(2024年3月31日以前から取引・証明に使用されているもの)
      ・計量方法(動的計量もしくは静的計量)













                     計量のHP