共栄会:夏期研修会

日時  :令和2年1月15日 AM9:30~11;30
議題  :八味地黄丸について
講師  :日本薬剤師研修センター 森山健三氏

講演内容
1.「金匱要略」(病気の処方ごと)から生死の判定方法
   鼻の頭のチェック
   ・青く、腹中が冷え、苦しむものは死ぬ
   ・薄暗いものは、水分代謝障害がある
   ・黄色いものは、胸の上部に冷えがある
   ・白いもには、貧血である
   ・薄赤色のものは、死ぬ
   ・口の辺りが青く、身体が冷えてるものは、病が臓に入ったので死ぬ
  病人すべてを治すことが出来ない。
2.トリアージ(triage) 
   患者の重症度に基づいて、治療の優先度を決定して選別を行うことで、
   治療するに当たって、病人を診て、自分の能力で治せる患者をラベリングする。
   
   ①その物差しは、
    ・熱エネルギー
     暑いか・寒いか
     風邪を引いた時、熱いなぁ~と感覚的にわかるし、計ることが出来る。
    ・運動エネルギー
     緊張しているか・弛緩しているか
     おしっこなど、緊張していると出ないし、逆だとだだ漏れ



    「傷寒論」では、熱エネルギーで、薬が決まって来る。
    頭痛の場合、西洋医学では、寒熱関係なく、頭痛。
    効能の確率を上げることが問われる。
  
  ②熱症・寒症の取り間違い
    桂枝加附子湯(寒症の小陰病に位置する薬方)症を呈してる患者にもかかわらず、桂枝加附子湯から
    附子を取り去った桂枝湯(熱症の太陽病に位置する薬方)を投与してしまった。
    小便数、微悪寒、脚攣急などの寒冷症状を呈してる病態に寒・熱間違って投与した。
    西洋医学で間違って薬を使った時のガイドラインは無い。
    


     この4つの中で治まるので、慌てることがない。


    
      証の間違いにより、八味地黄丸で熱がこもった時は、三黄瀉心湯(黄芩・黄連・大黄)で救済 
     ぱっと見た印象で・・・
     


     「ジャコウ」は、頭の血管に有効?
     含有の医薬品は、どんどん無くなっている。
    
3.八味地黄丸
    地黄(ジオウ)、 山茱萸(サンシュユ)、山薬(サンヤク)、沢瀉(タクシャ)、茯苓(ブクリョウ)
    牡丹皮(ボタンピ)、桂皮(ケイヒ)、附子末(ブシマツ)

   ・夜間排尿が1回以上ある
   ・排尿に勢いが無くなってきた(前立腺肥大症の初期)
   ・排尿後残った感じがする(残尿感)
   ・尿漏れ(軽度)             ・頻尿
   ・高齢者のかすみ目          ・蟻走感(むずむずした痒み)
   ・よくつまずく(脚弱)          ・腰痛
 
  ①前立腺肥大症にみられる刺激症状、特に頻尿の改善
    臨床薬理
    ・排尿所要時間、残尿感、夜間尿回数について減少、短縮があった。
    ・排尿困難、頻尿、残尿感 改善
    臨床研究
    ・前立腺肥大症の排尿状態改善、骨盤部の血流障害

  
  ②抗コリン作用
    神経伝達物質であるアセチルコリンがシナプス後部の受容体と結合することを阻害する作用
    八味地黄丸は、carbachol(コリン作動薬)に対する膀胱内圧の上昇反応を抑制
    ・排尿回数が多く、1回量が少ない。口が渇いて水をよく飲む(糖尿病の初期) 
     「消渇」でなく、飲んだ分だけ、小便が出るような時は、有効である。

  ③NO合成促進作用
    血管拡張作用や不足は血管の内皮機能の低下や高血圧に関係
    ・糖尿病性腎症の早期治療と進展の防止に有効か?
    ・下肢の痺れ、脱力感がある糖尿病性ニューロバシー
     「崔氏八味丸」は、脚気上がって小腹に入り、不仁するを治す
    
    ・腰痛・痺れ
      約50%の改善

   ④血痺虚労改善
     症状
      ・悪寒発熱はないが呼吸がせわしい
      ・腹内がつれて痛む
      ・小便が乏しい
      ・顔は顔色を失う
      ・時々目先が暗くなって鼻血を出す
      ・下腹が張っている
      ・特に春夏に手足のほてりが激しい
      ・陰部が冷えて失精する
      ・筋力が衰えて歩けない

     
   臨床研究2
    高血圧に伴い取り込まれるブドウ糖の量が増えると、解糖系経路だけでは、処理しきれなくなり、
    迂回経路を通るようになる。その1つがポリオール代謝経路。
    補酵素であるNADPH(還元型ニコチンアミドアデニンヌクレオチドリン酸)が大量に消費される。
    一酸化窒素(NO)合成酵素や還元型グルタチオン産生酵素もNADPHを補酵素として利用する。
    NOの低下は、血流の異常や虚血を還元型グルタチオンの減少は酸化ストレスの亢進を招く。
    ・神経代謝改善効果
    ・糖質改善作用
    ・NA排泄増加を伴う利尿作用
    ・水電解質の調整作用
    ・グルタチオン代謝改善
    ・貧血防止作用

   臨床研究3
    ・月経不順・排卵障害
      高プロラクチン血症の改善
       八味地黄丸のspermatgenesls(精子形成)に及ぼす影響と内分泌学的検討
                                         (産婦漢方研あゆみ)
      プロラクチン値 減少  無月経 → 排卵
       高プロラクチン血症患者への八味地黄丸の臨床応用(産婦漢方研あゆみ)
    ・閉経前後の更年期障害
    ・閉経期萎縮性膣炎
    ・高年者に多発する病態
     排尿障害、糖尿病、骨粗鬆症、腰痛
     高脂血症
      血清HDL-C及び動脈硬化指数の改善
       八味地黄丸の治療効果と血清HDL-C値への影響について(WAKAN-YAKU)
     老人性白内障
      進行を防止する作用
        老人性白内障に対する八味地黄丸の投与成績(基礎と臨床)
     認知症の予防
       IgM高める・IgG減少防止・血清補体価(TCH50)高める
         老人の免疫能と漢方薬の影響(和漢医薬誌)
     脳循環改善
       網膜中心動脈や中大脳動脈の血流を増加
       →中枢神経機能全般に機能促進、活性をもたらしている。
         血圧や脈拍数などの循環動態には変化を与えず脳への血流を調節、
         脳内局所の血流分布を調整している可能性が示唆される。

4.効能・効果
   体力中等度以下で、疲れやすくて、四肢が冷えやすく、尿量減少または多尿で、
   ときに口渇があるものの次の諸症:
    下肢痛、腰痛、しびれ、高齢者のかすみ目、かゆみ、排尿困難、残尿感、夜間尿、頻尿、むくみ
    高血圧に伴う随伴症状の改善(肩こり、頭重、耳鳴り)、軽い尿漏れ



       漢方の目で健康を考える