平成26年 夏期講習会
日時 平成26年8月19日 PM1:00〜3:30
場所 万葉ホール

 「認知症の予防と治療について」
                           奈良県立医科大学精神医学講座 教授 岸本 年史


1.認知症とは、成長とともに得られた知的な機能が後天的に低下した場合を指す。



 60〜69歳     1.5%
 70〜74歳     3.6%
 75〜79歳     7.1%
 80〜84歳    14.6%
 85歳以上     27.3%











 認知症でない
  物忘れ症状や遂行能力の低下はあるが
  日常生活や社会生活は、自立している。

 軽度認知障害
  記憶力低下が本人または家族からわかる。
  認知症で無いが、加齢性では説明出来ない
  認知障害(低下)がある。
  身の回りの事は、自立している。
  記憶以外の機能は、正常
  年間10〜15%で認知症に進行する。






 @アルツハイマー型認知症    67.6%
 A脳血管性認知症         19.5%
 Bパーキンソン病に伴う認知症  4.3%
 C混合型認知症            3.3%
 D前頭側頭型認知症         1.0%
 Eアルコール依存型         0.4%





疑う症状
 @日常生活に支障のある物忘れ
 A計画を立てて、物事を行うことができない
 B日付や時間、場所の感覚がわからなくなっている
 C話したり、読んだりすることが難しくなっている
 D見えているのに、距離や色の判断が出来なくなっている
 E物事の判断ができず、すぐ人に頼る
 Fいつも行っている慣れた作業が出来なくなった
 G気分や性格がかわってしまった

 ・物忘れ

 加齢などによる良性の物忘れ   認知症などにみられる病的な物忘れ
 大きな出来事(旅行・結婚式)などの 一部を忘れる  大きな出来事自体をわすれる
 年齢とともにゆっくり進行する 1.2年で進行 
 物忘れを自覚している 物忘れを自覚できず、否定することもある 
日常生活にほとんど影響しない   日常生活に影響する 
ヒントで思い出せる   ヒントで思い出せない
取り繕わない  取り繕う 




  ・暮らしの中のもの忘れ
     買い物いくたび同じ物をを買ってくる
     最近の出来事についての話をしなくなった
     指示通り、薬が飲めない

   ・計画を立てて物事を行うことができない(実行機能障害)
     料理を手順通りに作ることが難しい
     家計や通帳の管理が難しい
     複数のことを同時に行うことが難しい

   ・日付や時間。場所の感覚がわからなくなる(見当識障害)
     日時がわからなくなる
          ↓
     場所がわからなくなる
          ↓
     季節がわからなくなる
          ↓
     人物がわからなくなる
          
   ・話したり、読んだりすることが難しくなっている
     会話の中に「あれ、それ」が増える
          ↓
     一文づつしか理解できなくなる
          ↓
     応答が単語になる「うん、はい」
          ↓
        会話不成立
   ・見えているのに、距離の判断や色の判断が出来なくなっている(失認)
      ○○さんのお部屋と書いてあるのに気づかない
      目の前にお箸やスプーンがあるのに手づかみで食べようとする
  
   ・物事の判断が出来ず、直ぐに人に頼る
      何か質問されても、すぐ他の人に聞く
      Q、今朝、何を食べましたか?   A。なんやったかな? 母さん

   ・いつも行っている慣れた作業が出来なくなった(失行)
      リモコンが使えなくなった
      電子レンジが使えなくなった
   ・気分や性格がかわってしまった(人格変化)
      怒りっぽくなった
      何でもないことに直ぐに泣いたり、笑ったりする
      ぶっきらぼうになった

2.認知症の検査
  認知症のタイプによって、治療やケアの仕方が変わってくるので正しく客観的に検査をすることが重要
  @血液検査・
    ・ビタミンB1、B12、葉酸
     高齢者では、胃酸の分泌が低下するために吸収が不十分になることがある。
     分泌される胃酸が少なくなると、摂取した肉に含まれるタンパク質からビタミンB12を取り出す機能が低下する。      B12の働きは、新しい細胞を作り、壊れた細胞を修復する。また、神経の壊れた部分を修復する。
    ・血中アンモニア濃度
    ・甲状腺ホルモン
      甲状腺機能低下症による二次性認知症の鑑別
    ・梅毒血清反応検査
    ・特異的トレポーマ検査
   脳脊髄液検査 
    ・アミロイドβ蛋白(アルツハイマー型認知症)
    ・総タウ蛋白
    ・リン酸化タウ蛋白
    ・プリオン蛋白
    ・神経梅毒(CSF−VDRL)



  A画像検査
     脳血流SPECT検査、頭部CTやMRIなどを撮影



  B神経心理学的検査(記憶、判断能力や計算力を測定)
   認知機能の評価
   ・改訂長谷川式簡易知能評価尺度(HDS−R)  
   ・MMSE(ミニメンタルステート検査)
    <特徴>
     ○重症度を分類できる
       21〜24点   軽症認知症
       10〜20点   中等症
       10点未満    高度
     ○世界的に用いられている○記憶以外の課題についても検討できる○10分程度で検査が終わる
   ・ADAS−Cog.
   ・時計影画テスト(CDT)

     「時計の文字盤を描き、それに文字盤の数字を描き込んで下さい。そして、11時10分を指すように
      2本の時計の針を描き込んで下さい」
     CDT採点基準
     1.おおよそ円形の文字盤
     2.数字の位置が対照的
     3.数字が正しい
     4.2本の針がある
     5.針が11時10分を指している

   ADL(日常生活動作)の評価
   ・DAD(日常生活についての評価)
   ・IADL(手段的ADLを評価)
   周辺症状の評価
   ・NPI(妄想など精神症状についての評価)
   ・GDS(うつ症状について)
   重症度分類
   ・FAST評価
   ・CDR(ADLや認知機能全般で評価)

  
 アルツハイマー病
 症状は、発症の約25年前からアミロイドβが溜まりはじめ、脳脊髄液に変化が起こる。
 発症15年前に脳内アミロイドベータの他にタウ蛋白質の増加が顕著となり、
 発病10年前に海馬が萎縮、発病5年ほど前に、脳の糖代謝の低下やエピソード記憶の障害が確認される。


 ・最近のことがわからなくなり、昔の事はよく覚えている。
 ・記憶以外に図形の認識が悪くなり、字を書くのが下手になったりする。
 ・病理学的には老人班という脳のシミと神経細胞が病的に変化した神経原線維変化がみられ
   徐々に異常が広がっていく。
 ・意欲低下など精神症状、取り繕い反応と云った特徴的な対人行動がみられる。
   はじめから物盗られ妄想が認められる場合がある。
 ・進行すると、記憶以外の能力も全般的に低下する。
 ・男性よりも女性の方が多い。









    





 

 レビー小体型認知症(DLB)
 ・日本人精神科医の小阪憲司先生が発見した認知症
 ・しっかりしているときとボーとしているときの波がある。(認知の動揺)
  ありありとした幻想、パーキンソン症状を主症状とした認知症
 ・REM睡眠行動障害、失神と転倒、幻想と妄想、強いうつ状態などを認めることがあり、介護が難しい
 ・脳の神経細胞にdシヌクレインという蛋白で構成されるレビー小体が認められ、パーキンソン病と近縁疾患
 ・簡単な計算(減算)や逆唱の失敗が目立つ
 ・認知機能の低下は、全般的に軽度だが、身体面の悪化が速い。


 血管性認知症



  ・急激な発病と段階状の変化「まだらボケ」
  ・ラクナ梗塞などの多発性の小梗塞で起こるタイプは、
   徐々に進行する
  ・高血圧の存在・運動機能や感覚異常・血管性パー
   キンソン症状・怒りっぽい等の人格変化や感情失禁
   などから鑑別される
  ・アルツハイマー型認知症に認められるような
   取り繕い反応などの特徴的な対人間関係様式は
   出現しない。
  ・身体面・精神面の問題からアルツハイマー型よりも
   介護に手を焼くこともある。


   73歳 男性

   73歳 秋
   家族が物忘れに気づくようになったが、
   この間違いを指摘されると本人も自覚できた。
   また、以前から毎週日曜日のゴミ出しを行い、
   毎月1日に家族にお金を振り込んでいたが、
   この頃は、まだ問題が無かった。
   73歳 冬〜春
   つじつまの合わないことを言ったり、それを指摘する
   と興奮して怒るようになり、ゴミ出しを行わず、
   お金の振り込みも忘れるようになったため、
                                        心配した家族に連れられて、受診となった。


 前頭側頭葉変性症(FTLD)
 ・若年発病(65歳未満)が多数を占める。
 ・記憶障害等は目立たず、人が変わってしまった様になる。
 ・周囲への気配りや共感性が乏しくなり、欲動性脱抑制(本能のままに動く)が生じたり、深刻な場面でもふざける。
 ・行動がパターン化することが多い。
 ・同じ事ばかり云ったり、言葉の理解が悪くなったり、使い方は、わかっているのに物の名前がわからなくなる等
  言語の問題が生じる。

 認知症治療

   治療薬
   リバスタッチ 4.5mg ¥346.8/枚 小野薬品
    アルツハイマー病になると、脳内のアセチルコリンという物質が不足して、神経間の伝達が悪る。
    おもな作用は、アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼという酵素の働きを妨害し、
    脳内のアセチルコリンを増やすことで、ブチリルコリンエステラーゼを阻害する作用。
   イクセロン  4.5mg ¥346.8/枚 ノバルティス ファーマ
    貼付タイプのアルツハイマー型認知症治療剤で、適応症は軽度及び中等度のアルツハイマー型認知症に
    おける認知症症状の進行抑制に有効。
   アリセプト 3mg \225.8/錠  エーザイ
    アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの働きを妨害する。
    その結果、脳内のアセチルコリンが増え、神経間の伝達がスムーズになり、認知症の改善。
   メマリー  5mg ¥137.7/錠 第一三共株式会社
    脳内のグルタミン酸という神経伝達物質が多くなると、記憶に関係する神経の働きが悪くなる。
    そのため、物忘れがひどくなり、思考力や判断力が低下する。
    過剰なグルタミン酸をおさえ、グルタミン酸による悪影響から神経を守る。
    グルタミン酸神経系の機能異常が改善され、アルツハイマー型認知症の諸症状が軽くなる。
    認知機能をよくするだけでなく、アルツハイマー病にともなう行動異常や心理症状にもよい影響をもたらすので
    病気がすすんだやや重いアルツハイマー型認知症に有効。
   レミニール ガランタミン臭化水素酸塩  4mg ¥107.3/錠 ヤンセンファーマ株式会社
    アセチルコリンを分解するアセチルコリンエステラーゼの働きを妨害し、脳内のアセチルコリンを増やす。
    さらに、アセチルコリン受容体のアロステリック部位に結合して神経の働きを高める。
    これらの2つの作用により、アルツハイマー型認知症の諸症状を改善。