Look Back



あの、いかにも怪しい謎の商船から逃れるために、必死でオールでこいでいるうちに、 あたりはもうすでに朝になり、明るくなっていた。

商船は影も形も見えない。

それどころか、陸地のひとつも視界に捉えることはできなかったが・・・。

ふう、と息をつき、「休憩ー」とばかりにその場に座り込んだタルが、カナイにたずねた。

「なあ、カナイ。一体、あの船なんだんったんだろうな?」

カナイは難しい顔をしたまま、タルの声が聞こえているのか、聞こえていないのか、全く反応を示さなかった。

その様子を見ていたポーラがポツリと答える。

「・・・ラズリルの・・・敵・・・ですから・・・」
「ったく・・・ポーラは・・・。それだけわかったら、もう納得ってか?」
「・・・そういうわけでは、ありませんが・・・」
「・・・クールーク・・・か」

ポーラも首を少し傾けて、考え込んだ。
タルもそれだけ言うと、黙り込んだ。

「ねえねえ、それより、俺腹が減ったよ〜」

一人のんきそうに、チープーが声を上げた。

そういえば、確かに腹がすいていることに、ようやく他の面々も気がついた。
ほとんど一晩中、船をこいでいれば、疲労もたまるしおなかもすくだろう。

当然のことだ。

それに、悩んでもどうしようもないことなのだ。この流刑船はラズリルに戻れはしないのだから。

食事をするのは、気分を切り替えるのにちょうどいい。

「カナイー、飯にしようぜ」

難しい顔をしたまま、一言も発しようとしないカナイを正気に返らそうと、タルはカナイの両肩をつかむと大きく揺さぶった。

「カーナーイー?」
「うわって、え? え? ちょ・・・タル、や、やめて・・・」

ようやく我に返ったのか、あわてたようにカナイは抵抗を始めた。

しかし、すでに両肩をつかまれており、しかも身長こそそう変わらないが、自分より体格がよく、力も強いタルが本気で揺さぶっているので、不意をつかれたカナイは、揺すられる体を止めることも、タルを突き飛ばすこともできずにされるがままになっている。

肩をつかまれて、しかも揺すられるまで気がつかないなんて珍しいと、ポーラはある意味感心していた。

「何にそんなに気をとられていたのです?」
「え・・・え・・・え、と・・・」

途中からはもう完全に遊んでいるだろうタルにまだ揺さぶられながら、それでもその体勢にある程度慣れてしまったのかカナイはポーラの質問に答えようと口を開き・・・。

「って・・・」

とっさに口を押さえた。

「おい、カナイ?」
そのときに、タルはようやくカナイをはなした。
「どうした?」
心配そうにタルが、カナイの顔を覗き込む。
「・・・・・・・・・・・・」
無言のまま、カナイは口から手を離し、覗き込むタルの顔に笑顔をむけた。
ただ、その笑顔が「心配しなくていいよ」風味の穏やかな笑顔でなかったのが、タルの背筋を凍らせた。
「ふふふ・・・、タル・・・」
「な、なんだ・・・?」

(ちょっと、やりすぎたか・・・? でも・・・)

と少し自分の行動を後悔しながら後ずさるタルに、村のおかみさんがたいわく、「天使の微笑み」を向けた。

もう一度ニコーっと笑いかけるカナイにタルは本能的な恐怖を感じてとっさに身を翻し、狭い船のなかであれ、カナイから最も離れた位置に飛びのこうとした。

しかし、カナイはその身軽さをふる活用したかのように身を翻したタルの目の前に回りこみ、思い切りまわし蹴りを食らわした。

「あーーーーーーーー!!!!!」

と、悲鳴を上げながら、海に落ちるタル。

バッシャーン!

と派手な音をたてて一瞬沈んでいったが、すぐに浮き上がり、とっさに息がすえなかったのか海水にむせて盛大に咳き込んでいた。

「口をかんだじゃないか! 血が出たぞ、これ!」

カナイは船の縁に足をかけ、タルを見下ろして叫んだ。

(そ、それだけで・・・?)
食事以外の話に展開しそうだと考えたチープーは、まあ、先に食べても支障はないかなー、と一人食事の用意をし始めていたのだが、一応、カナイたちの成り行きも見守っていた。

それで、カナイの行動を全て見ていたのだが、タルが船から海へ蹴落とされたのかということに驚愕を覚えていた。

(カ、カナイってけっこう凶暴・・・?)

ハ、ハ・・・と乾いた笑いを浮かべてポーラの方を伺うと、また・・・、とばかりにため息をついたのがわかった。

つまり、慣れているのだ。

(お、おれはカナイを怒らせないようにしよーっと・・・)

と心の中でチープーは軽く決心した。

タルはというと、「悪い、悪かった! 調子に乗りました!」水の中から平謝りしていた。

カナイはそのタルを上から見下ろしたまま、船に引っ張りあげようともしてあげない。

そうっと覗き込んだカナイの顔は、いつものように、天使のように愛らしい笑顔を浮かべているのに、どこか言いようのない恐怖を感じさせる雰囲気をかもし出している。

チープーは体中の毛が総毛だったような気分になった。

(お、おれ、乗り込む船、とことん間違ったんじゃ・・・)



[状況判断]

・現在の位置不明(いつまで食糧が持つかわからない)。
・わかったとしても、ラズリルにはけして戻れない。
・もし、他の島にたどりついた所で、受け入れられるかは不明。
・昨日の夜に見た商船に、再度見つかったら、今度こそ命はない。

メンバーに関して。
・タルはのりはいいが、墓穴を掘りやすい。
・ポーラは、必要なことは言うが、基本的に無口。
・なにより、カナイが怖い。



(ラ、ラズリルで話してたときは、すごく人当たりのよさそうな、優しい感じだったのに〜!?)

たしかに、その雰囲気はある。

が、ふとしたことでキレるらしいということが判明。

しかも、切れ方が怖い。

チープーは未来の大商人になる自分の姿を思い浮かべて、しばし現実逃避に走ったのだった。

「あーあ! 今日もいい天気・・・」


【END・・・?】


えーと・・・、ギャグです。
最初、けっこうシリアスに、若様に見逃してもらったことについて、悩む4様を書こうと思ったのですが、なぜかこういうことになりました。
しかも、言いかけのまんま4様の台詞止まってます。
登場したのも、最初ケネスにしようと思っていたのに、ギャグにあたりタルに出演していただきました。
性格はうまくつかめないのですが、イメージ的にタルの方が遊んでくれそうかな・・・と。

もしかしたら、続くかもしれないです。

(04.10.03)



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