ダグラスは、いつものように、エリーにフラムの依頼をするべく、職人どおりを歩いていた。
そして、赤い屋根の錬金術工房の前に立つと、ためらいもなく力強くその扉を叩く。
「おい、エリー。邪魔するぜ。」
「あ、ダグラス。ちょっと、待ってて〜。」
ノックとともに返事も待たずに入ってきたダグラスに、エリーは特に気にした様子もなく、調合途中の手を休めることなく、ちょっと振り向いてニコッと笑ったあと、そういった。
「おう。」
ダグラスも気にした様子はなく、調理台の前においてある椅子を引っ張ってきて、どかっと腰を下ろし、真剣な表情で調合を行っているエリーの様子を見つめていた。
3.君のとなり
10分くらい経っただろうか、調合していたものが出来上がったらしく、エリーは手を止めて、ちょっと申し訳なさそうな顔で振り向いた。
「ごめんね、ダグラス。待たせちゃって。」
「いいや、かまわないぜ。」
そういって笑うダグラスに、エリーはホッとしたように笑った。
だいたい、ダグラスがいきなり来て、勝手に上がりこんでいるのだ。
少しくらい待たされて、怒るわけがない。
「おまえさ……。」
「ん?」
座ってるダグラスの近くまで、とことこと近づいてきたエリーが、小首をかしげた。
そのしぐさがまた、可愛らしい。
そう思って、ダグラスは苦笑した。
「いや、なんでもないぜ。」
言いながら、座ったままでも簡単に届くエリーの頭をくしゃくしゃっとなでる。
「やー! ダグラスひどいー!!」
慌ててダグラスの手から逃げ、鳥の巣状態になった髪の毛をなでつけ、ぷうと頬を膨らませて文句を言うエリーに、ダグラスは噴出した。
「もー!!」
そのダグラスの様子に、ムッとしたのか、お返しとばかりに、ダグラスの頭に手を伸ばして、髪を触ろうとする。
「おいこら。」
苦笑交じりにたしなめながら、その腕をつかむ。
(相変わらず、ほっせー。)
つかんだ腕の細さに、今更ながら、驚きを覚える。
採取などで敵と遭遇したときとかに、とっさにつかむことはあっても、そういう時は、それほど気にしたりしなかったのだが――。
「ダグラスばっかり、ずるい!!」
邪魔されたことで、余計にむきになったのか、ダグラスにつかまれたままの腕で必死にダグラスの頭を触ろうと手を伸ばしてきた。
その顔が、ふくれっつらのせいか、ちょっとだけ赤く染まり、何とも子供っぽい顔になっている。
(これで、確か、16なんだよな?)
いや、確か、17に近かったはずだ。
どこからどう見ても、出会ったころと変わらず、幼い少女のままであるエリーに、またダグラスは苦笑した。
「あきらめろ。ムダだ。」
「ムダじゃないもん!!」
すでに、ダグラスの頭をぐしゃぐしゃにすることしか、考えていないエリーを、なんとなく、遠くからみつめるような気分で見ていた。
本当に、子供っぽい。
いや、子供そのものだ。
……それなのに、愛しいと思う。
抱きしめて、自分の腕の中に閉じ込めて、誰にも渡したくないと――。
(おれも、焼きが回ったな……。)
「……? ダグラス?」
そのダグラスのいつもと違ったまなざしに気がついたのか、不思議そうにダグラスを見つめてくるエリーの薄い茶色の瞳を見つめ返す。
「いや、なんでもないぜ。」
「ほんと?」
「ああ、ホントだ。」
そういいながら、ふとしたいたずらを思いつく。
ニヤリと笑い、まだつかんだままだった、エリーの腕をぐいっと引っ張る。
「――キャ!!」
それがあまりに突然だったせいか、エリーはあっさり、ダグラスの思惑通り、膝の上に倒れ掛かり、――抱きしめられた。
「????? ダ……ダグラス……?」
いかにも混乱してますみたいな、上ずった声でダグラスを呼び、ダグラスの膝の上から上目使いに見てくるエリーの、情けない、泣きそうなくらいに真っ赤な顔を見て、ダグラスは思いっきり、噴出してしまった。
これほどまでに、想像通りの反応をしてくれるとは、思わなかった。
やっぱり、まだまだ、子供なのだ。
「プッ……。」
「あ!! ダグラス!! また、からかったんだ!!」
ひどい〜!! と、ダグラスに抱きしめられた状態から、ポカスカとダグラスの胸元を叩くエリーを、ダグラスはもう一度、ぎゅっと抱きしめた。
「痛くも痒くもないぜ。……この状態から、抜け出してみるか?」
「ん――!!!!!」
ダグラスの、完全に面白がっている様子に、腹を立てたのか、無言になったエリーは、必死でもがいてダグラスの腕の中から抜け出そうとする。
「そんぐらいの力じゃ、ムリムリ。」
「もー!! ダグラスのバカ!!」
どうあがいても抜け出せないことを、ようやく理解したのか、エリーはダグラスの腕の中で力を抜いた。
「お、あきらめたのか?」
「…………。」
ダグラスが、急におとなしくなったエリーの顔を覗き込むと、エリーはものすごいふくれっつらになって、ダグラスから顔を背けた。
「フッ……。」
その様子がまた可愛らしくて、ダグラスはもう一度、ぎゅっと力を入れて抱きしめた。
「何がしたいのよ〜〜????」
(お?)
完全に泣き声になったエリーに、さすがにやりすぎたかと、ダグラスは天井を向いてため息をついた。
こんなことをしている自分も十分子供っぽいという自覚はあるが、それ以上に――。
「……早く、大人になってくれよ……。」
ポツリとつぶやいた言葉は、エリーにははっきりとは聞き取れなかったらしく――。
「え? ……なんて?」
「いや、別に?」
しれっと言いながら、ダグラスはようやく腕の力を抜いた。
その瞬間を逃さずに、ダグラスの腕から、飛びのくように逃げ出したエリーは、ダグラスから3メートルほど離れた場所で、振り返った。
「で!? 本当に、何の用事だったのよ!?」
「ああ、いつもの通り、フラムを5つ頼むぜ。」
まったくいつもと変わらないダグラスの様子に、やっぱりからかわれただけなんだと納得して、エリーはしぶしぶうなずいた。
「……わかった。」
返事をして、フラムの在庫を調べに行くエリーの後ろ姿を目で追いながら、ダグラスはまた苦笑した。
(あいつが、大人になるのは、まだまだ先だな――。)
こればっかりは強制できるものではないし、仕方がないな、と、ダグラスは心の中で、ため息をついた。
(ま、もう少しくらい、見守ってもいてもいいしな――。)
そう遠くない将来、自分のとなりには、彼女が――エリーがいたらいいと、そう、思う。
ちょうど、在庫があったのか、嬉しそうな顔でダグラスの元に駆け戻ってくるエリーの姿を見つめながら、ダグラスはやさしく微笑んでいた――。
【END】
…なんじゃこりゃ? セク○ラか?
「君のとなり」っていうか、「俺のとなり」…?
ダグラス、大人っぽいのか…? …とにかく、別人…(汗)
まあ、楽しかったから、よしとします。
…それでいいのか…?
(05.04.16)
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