「『ぷにぷに』?」
「そうだ。見かけが弱っちそうだからって、油断すんなよ? お前なんか一発でやられちまうことだってあるんだからな。」
2.ぷにぷにに遭遇
そう、ダグラスに言われたのは、初めてヘーベル湖へ2人で採取に行った時。
その時は、幸いにも『ぷにぷに』という魔物にも、他の魔物や盗賊にもあうことはなかった。
だから、油断した。
お金が足りなかったのだ。
つい、参考書と道具を揃えるのにムキになって、気が付いたら、お財布の中身が2桁と、大変なことになっていた。
飛翔亭に行って、依頼の内容を確かめたら、幸運にも『ヘーベル湖の水×4』と『グスタフ槍の草×5』という依頼が、かなり期限に余裕がある状態で残っていた。
どちらも、へーベル湖へ一回行けば手に入るもの。
それに、前回行ったときには魔物がいなかったから、多分今回も大丈夫だろうと、思い込んでしまったのだ。
「……どうしよう〜〜。」
エリーの口からこぼれ出た声は、泣き声がにじんでいて、頼りなく響いた。
唯一の頼みの綱である、木の杖をしっかりと握りなおす。
けれど、自分の腕力と、これで与えられるダメージは微々たるもので、相手がぷにぷに(水)一匹とは言え、倒せる自信がなかった。
「ダグラス〜。」
無意識に呼んでしまって、はっとする。
今回、いつも護衛を頼んでいるダグラスはいない。
それどころか、冒険者の一人も、雇う余裕がなかったのだ。
「ううう……。」
じりじりと、ぷにぷにとの間隔を広げていきながら、エリーが、このまま逃げられるのではないかと、かすかな希望を抱いた瞬間。
魔物とも思えないつぶらな瞳をした、青い半透明な物体が、エリーに向かって飛び掛ってきた。
「〜〜〜〜〜〜キャーーーー!!!!!」
思わず目をつぶり、ぶんぶんと杖を振り回した。
その杖に、重い衝撃を感じて、何かがはじきとんだ。
(……え……?)
恐る恐る目を開けると、さっきとは違う場所で、ぷにぷにがエリーを見ていた。
その目が、さっきとは少し違う感じで、エリーに対して警戒をしているようにも見えた。
どうやら、エリーがめちゃくちゃに振り回した杖のおかげで、ぷにぷにの攻撃がそれたらしく、それが、ぷにぷににもある程度のダメージを与えたようだった。
「ようし……。」
そのことに、少しばかり自信がついたエリーは、ごそごそと道具袋をあさり、クラフトを取り出した。
品質、効力ともに大したことのない品物ではあったが、それでも自分が杖で与えるダメージに比べると、かなりましな武器になる。
そのクラフトを、持っているだけ持ってきたことを思い出したのだ。
「えーい!」
掛け声とともに、クラフトを次々に投げつける。
無我夢中で投げつけたあと、ぷにぷにがいたはずの場所には……。
「あれ? これ、何だろ?」
青い小さな玉が落ちていた。
「あ……、これが、ぷにぷに玉か〜。」
拾い上げ、太陽に透かすと、きれいな虹色に光を出し、キラキラと輝いた。
「きれ〜い……。」
へへ……、と、エリーは笑って、採取かごにそれを大切にしまう。
「うれしいな〜。はじめて一人で魔物を退治できちゃった! これは、記念に残しとこっと!!」
怖かったけど、不安だったけど、今は、とても満足していた。
ヘーベル湖での採取は、この一度だけぷにぷにと遭遇した以外、特に問題なく、目的のものを手に入れて、無事ザールブルグへ帰り着くことができた。
――次の日。
「ダ〜グラス!」
いつものように、城門前で警備をしているダグラスのもとに、上機嫌のエリーが現れた。
「なんだ?」
「見て見て〜!!」
言いながら、見せる玉は、エリーが初めて魔物を自力で退治した際に得た戦利品。
「……なんだこれ?」
摘み上げ、しげしげと眺めるダグラスに、得意満面の笑顔で説明しようと、エリーが口を開いた瞬間。
パクッ。
「……………え……?」
「――うえっ!? まずっ!!! 何だこりゃ!?」
言いながらも、ゴクンと飲み込んでしまうダグラス。
何が起こったのか、一瞬わからなかったエリーは、次の瞬間、カーッと頭に血がのぼり、持っていた木の杖で思い切りダグラスを殴りつけていた。
「ダグラスのバカ〜〜〜〜!!!!!!」
「へ!?」
口の中の、言いようの無い、感じたことの無い感触を伴う味に、気を取られていたダグラスは、完全に不意をつかれて、エリーの怒りの一撃をまともに喰らった。
いくら相手が非力なエリーであったとはいえ、加減も何も無い攻撃を頭に喰らって、ダグラスはよろめき、そのまま城門の柱に頭をぶつけてうめいた。
「食べ物じゃない事ぐらいわかるでしょ〜〜!!」
それでも気の治まらないエリーは、更に、二度、三度とダグラスに殴りかかる。
「初めての戦利品!! 宝物にしようと思ってたのに――!!!」
―――――――――
その日、街の巡回から帰って来たエンデルクが城門の前に人だかりができているのを見つけた。
「……何事だ。」
その一言で、クモの子を散らすように、集まっていた人々が去って行った後に残されたのは……。
星が飛んだ状態で、完全に目を回して倒れている、自分の部下である青年と、その前で泣き崩れる、オレンジ色の法衣を着た、小柄な少女であったとか――。
【END】
なんとなく、思いついてしまったもので。
ダグラス食べるかな……?
……ちょっと、楽しかった(笑)
(05.03.11)
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