1.はげ






魔法の紙、ワルツ草、天使の糸に緑の中和剤・・・

うん、最近細かい作業も上達してきたみたい。やった、完成!!

と思った瞬間。

「よ!どうだ最近は?」

来た。やっぱり来た!

もちろん予想はしていた。他に何の使い道もないアイテムだから・・・

3日間もかけて、わたしが作っていたのは「トウペイル」。

男性用ヘアピース、つまりかつらのことなんだけど。

目の前にそわそわした様子で立っている武器屋のオヤジを見てやっぱり驚く。

どうしてわたしがかつらを作っていることがわかったの!?

今回だけじゃない、前に育毛剤「海藻」を作った時も。マリーさんが「竹林」を作った時もそうだったって言っていた。わたしは武器屋のオヤジの見事なハゲ頭をまじまじと見つめてしまう。

そこには、髪の毛は1本もないけど、髪に関する情報をキャッチする、特殊な受信装置があるのではないかと思ってしまう。うーん、興味深いなぁ!いつか研究の対象にしてみたいよ。

それはそうと、過去に作った育毛剤は、どっちも効き目が長く続かなかったんだよね。

だから発想を変えて、かつらを作ってみた。これならずっと黒髪を保てるでしょ?

わたし、頭いい!!って思ってたんだけど。

なにやら武器屋のオヤジは気に食わない様子。かつらは卑怯で、育毛剤はオッケーなんて、わたしにはよくわからない発想だなぁ。

結局、武器屋のオヤジは、新作「トウペイル」を買い取ってくれた。使ってくれたかは謎だけど。



しばらくして冒険から帰ってきたマリーさんに、工房で起こったことを報告する。

「う〜ん、かつらかぁ。たしかに気持ちはわかるかも。育毛剤なら自分の毛だけど、ずっと偽物を乗せてるって感じてるわけでしょ?見た目だけじゃないのよね。」

「なるほど・・・そうですね。わたし、錬金術で人を幸せにしたいって思ってたのに、大事なことを忘れてたみたいです。」

「いや、そこまで深刻になんなくても・・・」

たかがハゲでってマリーさんはぼそっと続けた。けど、わたしはとても大切な気持ちを思い出した気がする!

「マリーさん、わたし、がんばります!!」

「そ、そう?ほどほどにね。」

そう、まずは人の気持ちになることから。

それからわたしが、貴重な材料を惜しみも無く使い、5日間かけて作った自信満々の新作!わたしに大切な事を思い出させてくれたこの薬には・・・「あなたの気持ち」、そう名付けよう。

「で、それはどういう薬なの?」

わたしが調合している間は、たいてい冒険に出かけているマリーさんが、戻ってきて一番に興味を示してくれた。

「これはね、武器屋さんの気持ちを理解できるようになる薬なんです。」

「どういうこと?」

「うまり、これを飲むと、はげになっちゃいます。」

「ええぇ〜!?」

マリーさんが一気に青ざめる。そりゃそうだ。こんなもの作ってしまった自分がこわい。はっきり言って「超力暗黒水」や「燃え盛る大地」よりこわい、ある意味。瓶を持つ手が微かに震える。

「でも、大丈夫ですよ。育毛剤と同じで、そんなに長期間効果はないはずです。」

「絶対?」

「たぶん・・・。」

「飲むの?」

「それは・・・。」

マリーさんに聞かれて初めて、はげになった自分を真剣に想像してみた。

嫌!まずそんな頭じゃダグラスに会えない!100年の恋も冷めるわ!彼の嘲りの顔が目に浮かぶよう。ダグラスだけじゃない、恥ずかしくて誰にも会えないよー。人目を避けて街の外に出たとしても、モンスターにも馬鹿にされる気がする。きっとされる。ミルカッセに弟子入り(?)してベールを被って暮らすとか?それとも毎日「海藻」を調合して、他の以来なんか1つも受けられない生活を送るか・・・。そしてお金もなく、友達もなく、わたしは寂しくカリエルあたりの冷たい石畳の上で朽ち果ててゆくのだわ・・・。そんな人生って・・・!!

「なんかその薬、使う前からものすごい効き目だね。」

いつの間にか涙目になって一人の世界に行っちゃってたわたしを見て、苦笑しながらマリーさんが言った。

「もういいじゃない。武器屋のオヤジの苦悩が少しでもわかったんだから。この薬は捨てちゃおう。」

「マリーさん・・・そうですね。でも、この薬・・・見る度きっと初心に返ることができると思うんです。棚の奥に、封印しててもいいですか?」

「そうだね。一応貴重な材料使っててもったいないし。でも間違えて使わないように、ほんと気を付けてね!」

「はい!」


 
だけどやっぱり、そんな危険な薬を、手の届く所になんか置いておくべきじゃなかった・・・



「エリー、栄養剤使っていい?」

連日の調合でへとへとになっていたノルディスが工房にやってきた時のこと。

「もちろん、いいよ。」

わたしは自分の調合に夢中で、適当に答えた。あれ、栄養剤はこの前アニスが使ったので最後じゃなかったっけ・・・?



しばらくして「ヒーローの証」を被ったノルディスが、無言で工房を出て行った・・・

「あなたの気持ち」と「ヒーローの証」を1個ずつ失った・・・(たぶん交友値もいっぱい・・・)。



それから1週間、ノルディスを探し回るアイゼルに真実を告げる勇気も無く、彼の部屋の前に「海藻」をそっと置いておくのが精一杯のわたしでした。



【END】



194初書き小説です〜///
…もらったのは、いつだ…?
アップがものすごく遅れてごめん〜(>_<)
…今日、FDあさってて見つけた…(おバカ)
また書いてね〜!!
ありがとう!!


(05.12.06)


BACK