「セルジュ。何してるんだ?」



テルミナの波止場に立ったまま、海を眺めていたセルジュに、グレンが声をかけてきた。



「……何でも、ないんだ。」

「何でもないっていう顔じゃないだろ? それ。」



心配そうに顔を覗き込んでくるグレンに、セルジュはただ困ったように笑った。





002.波止場の海と空





海の色は、いつもと変わらない。

空の色だって、自分が知ってる色と全然変わらない。

なのに、どうして――。



「セルジュ?」



グレンが具合でも悪いのかと、セルジュの額に手を当ててきた。

その瞳は、本当にセルジュのことを心配してくれているのがよくわかる、とてもやさしい光を浮かべている。



「ありがとう、グレン。」

「セルジュ?」



心配そうに眉をよせたままのグレンの肩に、セルジュはコツンと額を乗せた。

この世界でできた友人。

セルジュのことを、自分の仲間が追っていると知っても、それでも敵になど回らず、自分が友人と認めた相手として、真正面から向き合ってくれる。

自分の仲間を裏切ることになっても、自分の見たものを、感じるものを、信じる強さを持っている青年。

彼がいてくれて、本当に、救われる気がする。



「……何か、悩みでもあるのか?」

「……。」



『悩み』というものとは、少し違う。

『不安』なのだ。

どうして、こうも不安なのか……。

ただ、自分を知る者がいないということは、こんなにも、心に不安が生まれることだったのだと、この世界に来て初めて知った。

知っているはずの人間が、セルジュを知らないという。

そのことが、セルジュの心に重い物を感じさせる。

ここに自分の居場所がないということを――。



「セルジュ。」



ポンポンと背中を叩かれて気が付いた。

無意識に、グレンの腕をギュッと握り締めていることに。



「ご、ごめん!」



慌ててその手を放したセルジュに、グレンが苦笑する。



「かまわない。……それで、セルジュが安心するなら。」

「……グレン。」



顔が熱くなった。

はずかしい。

グレンに甘えている自分を、グレンは気づいて、許容してくれている。

3つしか違わないというのに、この違いはなんだというのだろうか。



「……おれには、セルジュの気持ちは、わからない。でも、力になりたいとは思ってるんだ。……ひとりで苦しむことだけはしないでくれ。……おれは――、おまえが苦しむところを見たくはないんだ。」



「……グレン。」



優しいグレンの言葉に、胸が温かくなり、じんわりと何かが込み上げてくる。

慌てて横を向いて、腕で顔を擦った。

そのセルジュの頭を、また、グレンがポンポンと軽く叩いた。

その手の暖かさが、とても嬉しかった。



「おれ、頑張るよ。……自分の居場所を取り戻す為に。」

「……ああ、頑張れ。」



これから、自分たちは、古龍の砦へと向かう。

そこには、グレンの仲間であるアカシア龍騎士や、蛇骨大佐、そして、この事態の元凶と思われるヤマネコもいる。

戦いは容易なものではないだろう。

だが、あきらめたくはなかった。

このまま、唯々諾々となにもわからないまま、ヤマネコの言いなりになるのは嫌だった。



「必ず、元の世界に還ってみせる。」

「……ああ。」



隣で、同意してくれるグレンの表情が、少しだけ翳ったことには気がつかず、セルジュは意を決したように、両手をグッと握り締めて、グレンに微笑みかけた。



「さあ、アレフを迎えに行こう。出発だ。」

「わかった。」



そして、酒場にいるであろうアレフを迎えに行く為に、2人肩を並べて歩き出した。




前へ進もう。

あきらめないために。

とても力強い友人もいる。

きっと、大丈夫だ。




セルジュは自分に言い聞かせる。

きっと、おれは、帰ってみせる。

今、この波止場から見えるのと、全く同じで全く違う、あの、海と空のもとへ。



きっと――。




【END】



…なぜに、今ごろクロノクロス…?
いや、クロノクロスをやっていたときは、HPなど立ち上げることを露とも考えていなかったんですよ…。(ネット自体、つながってなかった。)
ストーリーが好きで、二次創作というもの自体存在を知らなかったのに、少し物語りを書き始めて、そのまま放置。
部屋の掃除を何度もしているはずなのに、どうも眼は素通りしていたらしく、ネタ帳が出てきてついに手を――!! (お馬鹿)
あくまで自己満足な作品です。
お題にちょうどいいのがあったので、少しだけ内容変更して、お題に併せてみました。
内容に矛盾があっても、そこはご愛嬌で…(脱走)



(05.08.19)
(構想自体は5年ほど前…?)



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