「フッチじゃん、あいつ、あんな所で何やってんだ?」
サスケは、あまりの天気のよさに昼寝の場所を見つけるついでに、三階にある庭園を散歩していた。
その時、ふと顔をあげた視線の先に、フッチらしい少年の姿をみつけた。
2.空
「よお! フッチ、何やってんだ?」
サスケが、ボーっと空を見上げてたフッチのところまで、駆け上がってきた。
フッチは、屋上からさらにはしごを登った、この城の最上部である屋根の上にいた。
普段から、ここには、グリフィンのフェザーしかいない。
そこに、フッチは、朝からずっと屋根から足をぶらぶらさせて、静かに座っていた。
「サスケは? どうしたの?」
「おれ? いや、おれは、お前が見えたから……。って、おれがお前に聞いてんだ!」
サスケは問われたことに素直に答えてから、自分の質問がスルーされたとこに気付き、叫んだ。
「ああ、うん。……空、見てたんだ。」
「空〜?」
言いながら、再び目線を上に上げたフッチにつられて、サスケも空を見上げる。
頭の上には、青い、何処までも青い空が広がっている。
「いい天気、だけど、他になんか見えるか?」
晴れた空に、白い雲がところどころ浮かんでいる。
鮮やかで、目が痛いくらいに澄んだ空に、まぶしい太陽がようやく西に移動し始めていた。
「……何かが見えるって訳じゃないけど……。」
「けど、何だよ? はっきり言えよ。気持ち悪いだろ!?」
サスケは言いながら、フッチの隣にストンと腰をおろした。
きっぱり、はっきりした性格のサスケは、カスミの前以外だと、かなり強気だ。
そう言うところは、ちょっと前の自分に似てるなーと、フッチは思った。
「うん、ごめん。でも……、ただ、ああ、空が遠いなあって思っただけなんだ。」
「空が遠い?」
サスケは、何言ってんだ?って不思議そうな顔をした。
仕方がないかもしれないと、フッチは笑った。
自分でも、よく分からない感情だったから。
「うん。なんとなく、慣れたつもりだったんだけど……。急に、空が飛びたくなって。……それで、この城で一番高いところにいたら、気がまぎれるかと思ったんだ。」
「ふーん……? で、まぎれたのか?」
全然、意味がわからないって顔しながらも、サスケはフッチの顔を覗き込んできた。
「それが……。」
「それが?」
「全然なんだ。」
「はあ!?」
フッチの答えに、あきれたような声を上げたサスケが面白くて、フッチは思わず吹き出してしまった。
「ああ!? フッチ! おまえ、おれをバカにしてんだな!!」
サスケは急に立ち上がって、斜め上からフッチを見下ろし、襟首をつかみかかった。
「違うよ! ほんとに!!」
ちょっと苦しくなった、フッチは、サスケの腕を無理やり引き離す。
ぶすっとした顔をしてはいたが、サスケもすんなり腕をはなして、もう一回、隣に座りなおした。
「で!?」
「……『で!?』って、言われても……。」
フッチは苦笑した。
はぐらかされたのだと思ったらしいサスケは、何が何でも自分の納得いく答えを聞き出すまで、立ち去らないことに決めたようだった。
「弱ったな……。」
「何が!?」
「本当に、よくわからないんだ。……どうして、こんな気持ちになるのか……。」
そういいながら、フッチの顔がフッと翳ったのに、サスケは気がつかなかった。
「わけわかんねえ。」
サスケがそのまま後ろに倒れるように、屋根の上に寝そべった。
「サスケ、このまま寝ないでよ? ここ、危ないんだから。」
ここはなぜか、最上階だというのに柵も手すりもなく、はっきり言って、非常に危険な場所だった。
「おれがそんなドジすると思うか〜? 寝たところで、落ちやしねえよ!!」
仮にも忍に言う台詞じゃない、と、サスケはすねたような顔で答えた。
「うん、そうだね。ごめん。でも、一応言っときたくて……。」
「ふんっ!」
サスケはそのまま、不貞寝の体勢に入ってしまった。
フッチはまた苦笑しながら、空を見上げた。
本当に、自分がどうしたいのかわからなかった。
ここにくれば、ちょっとは気がまぎれるかと思ったのに……。
「なさけないなあ……。」
つぶやき、息を吐く。
そのとき、視界の端に、白く、動く物が見えた。
「え? ブライト……?」
なぜか、ブライトがムササビ戦隊と一緒に、フッチがいる一段下の屋上にいた。
何をしているのかと、覗いてみたら、どうやら、ムクムクたちと一緒に、空を飛ぶ練習をしようとしているらしかった。
「ムリだ! ブライト!!」
慌てたフッチの声に、サスケが飛び上がる。
「なんだ!?」
「え!?」
そのまま、飛び立とうとするブライトを見て、止めに走ろうと立ち上がりかけたフッチは、あまりに慌てたせいで、足を滑らせた。
「フッチィ――!!!」
サスケの悲鳴のような叫び声が耳に届いた。
(落ちる――!!)
「キュイイ!?」
ブライトの、何もわかっていない無邪気な鳴き声を聞いた気がした。
けれど、フッチの視界に今、映っているのは――。
――空。
どこまでも続く、何一つ視界をさえぎるもののない、ただ、青くどこまでも澄んだ、まぶしいくらいに美しい――色だけだった。
「あ――。」
フッチは、理解した。
自分が、何を求めていたのか……。
漠然と、空を飛びたいな、とは思っていた。
けれど――。
(ブラックと見た、あの空が見たかったんだ――。)
3年前、自分をかばって死んだ相棒の黒い竜。
彼と一緒に大空を飛んでいるとき、自分は、どこまでもどこまでも飛んでいける気がした。
ブラックと一緒なら、世界の果てさえも決して遠くはない気がしていたのだ。
前しか見えなかったあの頃。
何も、怖いものなどなかった。
ブラックと一緒なら――。
「キュイィィ――ン!!」
「え?」
ぼんやり、落下の際の浮遊感に包まれながら、自分の身に起こっていることをどこか遠くの出来事のように考えていたフッチは、すぐ側で聞こえた、ブライトのものとは違う、低く重い、よく響く鳴き声に、ハッと意識を取り戻した。
同時に、首の後ろの辺りを思い切り引っ張られた。
「あ……。」
見ると、フェザーがいつの間にかフッチの服を加えて、ゆっくりと下降していた。
そのまま、中庭にフッチを降ろすと、またいつもの位置へと戻っていく。
「ありがとう、フェザー。」
フッチのお礼の言葉に、フェザーは「キュイーン!」と返事をした。
そうして、目を閉じて、さっき見た風景を思い出す。
もう、二度と見ることのできない、ブラックとともに見た空。
それが、あまりにも遠くに感じて、目頭が熱くなってきた。
「フッチ!」
「え?」
そのときいきなり、目の前にブライトを抱いたサスケが現れた。
サスケの忍ならではの神出鬼没さには、かなり慣れたつもりだったが、このときばかりはかなり驚いてしまった。
その上――。
バキィ!!
いきなり感じた左頬への痛みに、唖然とした。
「バカやろう! 危ないって言った本人が落ちてどうする!?」
サスケが真っ赤な顔で、フッチに怒鳴りつけてきた。
ジンジンする頬は、どうやらサスケに殴られたらしい。
けれど、全く腹は立たなかった。
逆に、ものすごく悪いことをした気分になる。
サスケは一見怒っているようだったが、その表情は、どこか泣き出しそうな感じにも見えた。
心配、させたんだ。
「ごめん。」
「あやまんな!!」
「でも……。本当に、ゴメン。」
「バカやろう!!」
サスケはもう一回そう叫ぶと、自分の腕の中で、ポカンとしているブライトをフッチの腕に押し付けると、ドカッとその近くにあった木の幹を蹴りつけた。
まだ若い、緑色の葉が数枚、ひらひらと散る。
そうして、サスケはまたふてくされたかのように、木の下に仰向けに倒れこんだ。
その隣に、フッチは黙って腰を下ろす。
「…………。」
「…………。」
二人とも、しばらくの間、ただ黙って側にいた。
「……サスケ。」
しばらくの沈黙の後、フッチがサスケに呼びかけた。
「なんだよ。」
「うん。また、おれ、空、飛ぶんだ。」
「……もういっかい、殴られたいのか?」
サスケはジロリとフッチを睨みつけた。
「ううん。もう、ごめんだよ。……違うよ。」
フッチは、空をまた見上げた。
屋上にいたときより、確実に空は遠いはずなのに、でも、なぜか、さっきより、近くに感じられる、そんな気がした。
ブライトがよちよちと庭を駆けて行く。
それを見ながら、フッチは自分の頬が緩むのを感じた。
「空、飛ぶんだ。……ブライトと。」
「……紛らわしいんだよ。」
「ふふ……。そしたら、サスケも一緒に飛ぼうね。」
「……気が、向いたらな。」
そう答えて、昼寝をするつもりなのか、サスケは目を閉じた。
それを見ながら、フッチは幸せな気分をかみ締めていた。
友達がいる。
そして、まだとても幼いけれど、自分の竜がいる。
ブラックと見た空は、もう二度と見ることはできないけれど、きっと、また、新しい空なら、いくらでも見ることができる。
(そうだよね? ブラック――。)
けして、忘れることなどできない自分の初めての竜。
彼に、心の中で語りかける。
(おれはまた、あの大空を飛ぶんだ。)
そうしたら、きっと、ブラックにもまたどこかで会える。
そんな、気がした――。
【END】
脈絡ないですか? …すいません。
108題終わってないのに…。
フッチのお題見つけて手を出してしまいました(汗)
こんなお題があったなんて、嬉しいです〜!!
(05.02.28)
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