その人とすれ違ったとき、どこかで感じたことのある、香りが、したような気がした。






7.イメージカラー






「…………どうした、フッチ。」

急に立ち止まったおれに、ハンフリーさんが不思議そうな顔を向ける。



「あ、いいえ。なんでも……ないんです。」

そう、答えたおれに、ハンフリーさんはフッと笑って、何事もなかったかのように、前を向いて歩き始めた。

その後を、おれは慌てて追いかける。



……不思議な人だった。



別に、言葉を交わしたわけでもなく、ただ、すれ違い様に瞳があった。

ただ、それだけ。

たったそれだけなのに、とても印象に残る人だった。


それに、外見は全然違うはずなのに、どこか、ティルさんに似ている、そんな気がした……。


その人は、黒っぽい服に身をつつみ、薄茶色のすこしくたびれたマントを羽織っていた。



それなのに、彼から感じられたのは、「青」。



何故か、彼を見た瞬間、彼が鮮やかな青い色に包まれているかのような、そんな錯覚に陥った。



「何だったのかな?」



ポツリと、少し前を歩くハンフリーさんに気付かれないくらいの声で、おれはつぶやく。



単に、道ですれ違っただけの人。



それだけなのに、何故か惹かれた。



それは……、彼から感じられた、香りの所為かもしれない。



「あれは……。」



何処かで、感じたことがある気がした。





そう、あれは――。





「……海……だ。」





思い至った答えに、フッチは得心を得た。



いつか、ブラックとともに訪れた、どこまでも広い、青い、きれいな海。



そういえば、彼の瞳は、その時に見た海の色に似ていたような気がした。



彼から感じられたのは、海の香り。

彼の全身を包み込んでいるように感じたのは、海の色。



彼は、海の近くで、海に育まれて生きてきた人なのかもしれない。



じゃあ、自分は……?



ブラックに選ばれたときから、空の中で生きてきた。

その自分を見て、誰かが空を連想してくれるだろうか……?



「そうだったら、いいんだけどな……。」



そんな夢みたいな事をつぶやきながら、苦笑する。



「また、会ってみたいな。」



何故、そう思ったのかは、解らなかったけど、『海』を連想させる、不思議ときれいな、ティルさんにどこか似ているあの人に――。



ティルさんに、今度会う事があったなら、話を聞いてもらおう。

きっと、彼なら、フッチの考えを笑うことなく、真摯に聞いてくれるだろうから。



それと、本当に、なんとなくだけど……。

今度、あの人に会ったら、声を、かけてみよう。



フッチは、そう、思った。




【END】


なんだこれ? ってくらい、ものすごく、自己満足な小説……。
なぜか、フッチと4主。
しかも、4主、フッチとすれ違っただけ……。
おまけに、めっちゃ短い……(汗)

(05.03.29)



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