バカらしいじゃないか。
たった一度の人生だぜ。
好きなことやって、好きなように生きなきゃ、絶対にもったいねえ。
やりたいことは。 (004.祖国の為に)
「たっだいま〜っと。」
久しぶりにコウアンへ戻ってきたおれを迎えたのは、使用人だけの空の家だった。
親父はともかく、お袋までいないってのは、ちっとばかし気になったが、まあ、親父がついてるなら大丈夫だろう。
そう判断して、おれはまた「見聞を広める」ための旅を再開した。
……まさか、親父とお袋が解放軍なんかに入って、国のために戦っていたなんて、そのときは思いもしなかった……。
「はあ〜……。やっぱり、おれに、政治なんて向いてないぜ。」
城から抜け出し、振り仰いでようやく息ができた気がする。
解放戦争集結後、見事に勝利をおさめた解放軍のリーダーは、人知れず出奔した。
そうして、その後、新たに建国されたトラン共和国の大統領に選ばれたのが、おれの親父だった。
親父はリーダーだったティルに心酔していたから、ティルが不在のトランを守り、いつかティルが戻ってくるときのために、立派な国にすることを誓ったようだった。
……自分に。
そんでもって、おれにまで国のために働くように強制し始めやがった。
そんな親父とそりが合わず、おれは今度は家ではなく、国を飛び出した。
トランの中だったら、親父の所為で、解放戦争中、そしてその後に売れたこの顔と名前が禍して、どうも注目されてる気がして落ち着かなかった。
……気のせいかもしれないが……。
てなわけで、とりあえず、トランと仲があまり良くなく(実際には、赤月帝国と)おれの素性も知られていないだろう都市同盟の方へと向かうことにした。
「……やばいときに、来ちまったようだな……。」
おれが、都市同盟入りした時は、確か、ハイランドとの休戦協定が結ばれるか、結ばれたかした頃だった。
なのに、あっという間にその協定は破られて、戦争がはじまった。
おかげで、陸路、水路に関らず、あらゆるところで規制が設けられて、すんなり、都市と都市、国と国の間を、動く事ができなくなってしまった。
仕方なしに、戦争の状況とかの情報の収集にかかってみると、都市同盟の方が明らかに分が悪いらしい。
だが、この戦争の原因は、どうもハイランドの狂王子、ルカにあるらしい。
「だったら、都市同盟を応援したいよな〜。」
他国の騒動など、最初は気にしてなかった。
とりあえず、自分の身に戦禍が降りかかってこないよう、避けて通るつもりだった。
だが、ルカのことを知れば知るほど、そんなことは言っていられない気がした。
あいつは、やばい。
このままでは、全てを飲み込み、破壊つくし……。
その狂気は、トランにまで広がってくるだろう。
……トランのためなんて、そんな大したこと考えたわけじゃない。
だけど――。
「ほっとくわけにゃ、いかんだろ。」
おためごかしな綺麗ごとなんて、言うつもりはサラサラない。
この都市同盟が分裂、崩壊して、ハイランドに飲み込まれたら、その分ハイランドは強くなり、次にトランに侵略を開始したとき、トランの国民の被害がでかくなるだけだ。
だったら、今のうちに同盟軍に協力してやるのが、一番効率がいい。
叩き潰すには、今、動くべきなのだ。
「黙ってみてるってわけには、いかんもんな。」
親父が大事に、精一杯の根性いれて治めてる国。
そして、アイツが、大切なものを全て失っても守り通した国。
なにより、おれが生まれて育った国なのだ。
「いっちょ、手伝ってやりますか。」
つぶやいて、ニヤリと笑う。
目的地は決まった。
デュナン湖のほとりにある、同盟軍の本拠地。
確かリーダーは、まだ15、6の少年だという話だ。
戦力不足で、かなり困窮した状況にあるらしい。
だったら、親父の名前を出せばいい。
きっと、飛びついてくるだろう。
「……悪いけど、利用させてもらうぜ。」
結果的には、都市同盟のためにもなるのだ。
それで、こっちの思惑は帳消しにしてもらおう。
まったく、こんなことを、おれが自分からやろうなんて思う日が来るなんて、考えたこともなかったぜ。
やりたいことやって、好きなように生きるのがおれって人間のポリシー?ってやつだったのに。
まあ、しゃあねえかな。
今、やりたいことが、これなんだから。
せいぜい、やりたいように、やらせてもらおうじゃねえか。
そうして、漸く見えてきた湖のほとりの古城を見上げておれは、ニヤリと笑った。
【END】
いつだったか、194にリクエスト?もらってたものです。
ようやく書けました。
たぶん、194の思惑とは外れている気がするのですが…。
まあ「「祖国の為に」をシーナで。」としか言われていなかったので、これでいいかな〜っと…。
トランのために、同盟軍を利用するシーナ。
オフィシャルとは設定が違うような気がするのですが、その辺はご容赦願います。
サイト2周年記念(2)としまして、この小説はフリーにさせて頂きます。
こんなもので良かったら、ご自由にお持ち帰り下さい。
できましたら、お持ち帰りタイトルは「やりたいことは。」でお願いします。
(05.06.24)
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