「おい、フッチ! この後どうすりゃいいんだよ!?」

サスケが、慌てた様子で、叫んでいる。

「とりあえず、落ち着いて!」

言った側から、サスケがかき混ぜていた鍋から汁が吹きこぼれた。

そのせいで更に慌てたらしいサスケは、となりに置いてあった足し汁……らしきものを鍋にぶち込んだ。

そのとたん――。

ボンッと音を立てて、黒い煙が厨房に立ち昇る。

「………………。」

おれは、ひとつ、ため息をつく。

「あいや〜〜!! 私のお城が〜〜!!!!!」

その後ろから、ハイ・ヨーの悲鳴が聞こえた……。





007.平和な日々





「……だから、素直にあやまったら?」

煤と灰にまみれ、頭から黒っぽく薄汚れ、剥き出しの手足に軽い火傷をおったサスケの治療をしながら、フッチは言った。

「だれが!!」

対するサスケの返事は、まあ、フッチの予想に違わないものだった。

フッチは、また、ため息をついた。

「大体、できもしないのに、どうして、あんなこと言ったの?」

「うるせーな! 男が、ああまで言われて引き下がれるか!?」

サスケが、フッチを睨みつけながら、叫んだ。

(つきあわされる、おれの身にもなってよ……。)

さすがに、言葉にするのはどうかと思い、心の中でフッチはつぶやき、もう一度ため息をついた。



ことの発端は、昨晩。

リオウ、ルック、サスケ、フリック、ビクトール、そしてフッチのメンバーで、予定どおり1週間の遠征から帰ってきたのだ。

そこへ、顔を紅調させ、喜び満面の笑顔で出迎えに来てくれたナナミが、言ったのだ。

「おかえりー!! 疲れたでしょ!? 皆のために、このナナミさんが、ご馳走を作って待ってたからね! それを食べて、また、明日から頑張ってね!!」

その言葉に、まず、フリックが固まり、同じように出迎えに飛び出してきたニナの姿に、これ幸いといつものごとく逃げ出した。

ルックは無言でその場から消えうせ、ビクトールさんは「シュウに用事があるから……。」と、嘘か本当かわからない言い訳で去って行った。

リオウは、いつものことと、慣れっこで、特に何も感じていないようだったけど、チラリとフッチを見たので、付き合うべきかと、あきらめのため息をついたのだ。

ところが、何も知らないサスケはその言葉に飛びついたのだ。

「へえ、気が利くじゃん! おれ、ハラペコだったんだよな〜!!」

「えへへ! 一杯あるから、じゃんじゃん食べてね!!」

……平和だったのは、ここまでだった。



「なんじゃこりゃ――――――!!!!!!!!!!」



見かけは、まあ、こんなものか、くらいで、特に悪い訳ではなく、臭いも、不思議と食べ物の臭いがしているのが、ナナミの料理の特徴で……。

何の疑いも持たずに口に料理を放り込んだ、サスケの第一声がそれだった。

「人間の食いもんじゃねえ!!」

「何ですって!?」

「信じらんねえ!! どうやったら、こんな味になるんだ!?」

「ちょっと! サスケ、どういう意味よ!?」

負けず劣らず気の強い二人が、けんけんごうごうと言いあう最中、リオウは何も気にせず、料理を口に運び、フッチも、比較的ましかなと思える料理をついばんでいたのだが――。

「――こんなん食うくらいなら、ブタの餌食ってるほうがずっとましだぜ!!」

「なんですってえ!? そんなこと言うなら、私より、美味しい料理作ってみなさいよ!! そこまでケチつけるからには、さぞかし美味しいの作れるんでしょうね!? できなきゃ、口だけの男として、城中にこのこと言いふらしてやるんだから!!」

「なんだと、誰が口だけだ!?」

「あんたが! サスケがよ!! 違うっていうんなら、証拠見せてみなさいよ!!」

「ああ!! 見せてやろうじゃねえか――!!!」



――という具合だった……。

そのせいで、今日は朝からサスケの料理作りを手伝わされているのだった。

(おれが作ったほうが、手っ取り早いんだけどな……。)

それほどうまいとは言えないけれど、とりあえず、料理らしきものを作れるフッチは、サスケの手際の悪さを見て、そう思った。

けど、口には出さない。

サスケがいい気分にならないのが、簡単に予想できたから。

負けず嫌いで、有言実行型、何にでも努力を惜しまないのが、サスケのいいところではあるけれど、料理に関しては、どうも、サスケに適正というものが見られるようには思えなかった。



「初めてで、小難しい料理を作ろうとするのが、いけないんだよ。……このあたりにしといたら?」

言いながら、リオウに借りたレシピ帳を開き、初級者向けの料理を指さしてみた。

「……簡単すぎて、アイツにバカにされる。」

むすっとした顔でつぶやくサスケに、また、ため息をついてしまった。

「仕方ないだろ?」

「いやだ。」

こうなったら、サスケはてこでも自分の意地を曲げない。

もう一度、ため息をつくと、フッチは、レシピ帳を閉じた。

「仕方ないな。じゃあ、お菓子にしよう。これだったら、落ち着いて一つ一つ考えながらできるから。」

サスケは、鍋の中で具材が焦げ始めたら、パニックに陥るらしい。

だから、最後にしか火を使わず、しかも、火加減をしっかり調節したら、あとは時間を見るだけでいい焼き菓子にすれば、少しはましにできるんじゃないかと思ったのだ。

「……………………わかった。」

すこし、考え込むように沈黙したサスケだったが、何かを振り切ったように、顔を上げ、頷いた。

しぶしぶでも頷いたサスケに、ホッとして、フッチはハイ・ヨーに材料を借りるために立ち上がった。

サスケもその後ろをついてきた。



小麦粉と、砂糖と、バターと、卵と……。



目的のお菓子に使用する材料を、一応ハイ・ヨーさんに確認しながら、用意し、サスケに1つずつ、順番にやることを教える。

サスケは決して、理解が悪いわけじゃないから、ゆっくり丁寧に見本を見せてやると、ぎこちない手つきながら、中々うまく作業をこなしていた。



――――――。



お菓子つくりに切り替えてから、2時間くらいたった後、厨房の中は、ふんわりと暖かい、甘い香りが充満していた。

「……やった……!」

サスケの、喜びの声が聞こえた。

焼きたてアツアツの焼き菓子を、一口ほおばった後の、サスケの言葉だった。

その、小さく、短くても、感極まった表情からしぼりだされた言葉は、雄弁に彼の心情を代弁していた。

「うん、初めてにしては、上出来だと思うよ。」

フッチの言葉に、サスケは、得意気な表情になった。

「あったりまえだろ!!」

その言葉に、クスクスと笑うおれに、サスケはちょっと罰が悪そうな顔になり、そっぽを向いた。

「サンキュ。」

「いいえ、どういたしまして。」

その、フッチの言葉を聞いているのかいないのか、サスケは、焼きたてのお菓子をバスケットに放り込むと、一目散に、その場を去って行った。

早速、ナナミに持っていくのだろう。

その様子が、微笑ましくて、フッチは、ほったらかしにされた散らかった厨房を片付けながら、笑った。

「お疲れさま。」

突然、背後からかけられた言葉に、驚いてフッチが振り向くと、そこに、ニコニコと笑いながら立っていたのは、リオウだった。

ナナミが原因となったこの争いが、やはりどこか気になっていたのだろう。

「ほんと、疲れましたよ……。」

苦笑しながらそう言うフッチに、さらに笑って、リオウは、後片付けを手伝っいはじめた。






後日――。

「これでいいと思う!?」

今日も厨房から、元気なナナミの声が聞こえる。

「もう、やめるアルよ〜〜〜!!!」

ついで、ハイ・ヨーの悲鳴も……。

あの日、サスケが持っていったお菓子に、『負け』を認めたらしいナナミは、その日から、ハイ・ヨーの厨房の一部を占拠して、どうにかサスケに一泡吹かせようと日々、努力をしているらしい。

初めは、暇があれば付き合っていたリオウも、ここ数日は逃げ回っているようだ。



ポカポカと日のあたる、中庭で寝転んでいた2人の元に、聞こえてきたその声に、お互い顔を見合わせて苦笑した。

「ホント、懲りないヤツだな……。」

あきれたように、そう言うサスケに、フッチは笑った。

「よく似てるよ。」

「あ? 何か言ったか?」

「ううん、何にも。」

言いながら、空を見上げる。

雲ひとつ無い、快晴だった。

「平和だなあ〜って、思ってね。」

「そうだな、それは言えてる。」

そう言って、2人でもう一度目を合わせて、笑った。

(いつも、こんな風に、笑っていられたら、いいんだけどな――。)

そう思いながら、フッチはサスケと共に、その穏やかな陽気を全身で感じ、その日一日をのんびりと過ごしていた――。





【END】


うーん……、やっぱりスランプ気味……?
それとも、実力か……(汗)
一話一話、キャラの性格がやっぱり違うなあ……。
ナナミは負けを認めるかなあ? ……難しいです。
ちなみに、サスケが作ったのは、マドレーヌ……のつもり。
……これなら、失敗はしないでしょう……?



(05.04.07)


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