あ……」

「え……?」

突然声をあげて立ち止まり、上を向いたまま遠くを見つめる眼差しをしたフッチを、リオウも立ち止まって、不思議そうに見つめた。

「風花――」





016.空に舞う





フッチは言いながら、右手で空を指差した。

それにつられるように、リオウも空を見上げる。

遥か上空、澄み切った青い空から、白いものがふわりふわりと降りてくる。

「わあ――!! きれい……」

それに気づいたナナミが歓声を上げた。

「ほんとだ――」

リオウも、その言葉に頷いた。

とたん、ナナミがリオウの手を引っ張って、走り出す。

「え、わ!」

前につんのめりそうになりながら、リオウは慌てて体勢を立て直して素直に引きずられていく。

街道をそれて、ナナミは、すぐ側にあった広場に駆け込み、キャイキャイと騒ぎながら、リオウを巻き込んで駆け回った。

「お子さまは、元気だねえ」

そんなのんきなことを言いながら、ビクトールは、はしゃぎまわる二人の様子を微笑ましそうに眺めた。

その間も、雪は、みんなを包み込むように周囲に舞う。

静かに音もなく降る雪を、ただ黙って見つめるフッチを、ルックも黙って見ていた。

それに気づいたビクトールが、ちゃかしをいれる。

「おうおう、どうした、ルック。そんなに見つめて。……惚れちまったのか?」

ニヤニヤ笑いながら肩をつついてくるビクトールを、汚いものでも見るかのように一瞥し、ルックは魔法で吹き飛ばした。

「うわっ……!!」

悲鳴をあげながらビクトールは、リオウとナナミの方へ吹っ飛ばされ、驚いたナナミとリオウが、一瞬沈黙し、次に声をあげて笑い出すのが聞こえてきた。

たしかに、ビクトールに言われるまでもなく、澄み切った青い空の下、舞い散る雪に包まれ、何かを懐かしむように中空に向かって微笑む少年は、幻想的なまでに美しかった――。

ビクトールの悲鳴を聞いて、フッチがルックに不思議そうな顔を向けた。

ルックは、フッチからフイッと目をそらした。

そのルックの仕草を見て、フッチは柔らかく微笑んだ。

そして、言葉を紡ぐ。

「花びらが風に舞うようだって、昔の人が言ってたけど、本当に、そうだと思わない?」

「さあね」

そっけなルックの言葉に、大して気にした様子もなく、フッチは視線をまた空にもどした。

「竜洞でも、初冬になると、背後の山々から流れてきた雪が、今みたいに降ってくるのが見られたんだ」

「そう」

「うん、だから……。……懐かしいなあって、思ってね」

言葉にしてしまえば、一言であらわせてしまうようなことではあったけれど、フッチの心の中に湧き起こった感情は、おそらく、フッチ本人にも把握しきれないほどに、深いものなのだろう。

そのことは、彼の瞳を見れば、簡単に想像がついた。

どこか遠く、遥か彼方を見つめるように目を細め、フッチは不意に泣きそうな表情をした。

その時いきなり風が吹き、フッチの周りまで降りてきていた雪が、その風に乗って空高く巻き上がっていった。

「え――?」

くるくると回りながら、ゆっくりと空へと上っていく白い雪。

そのひとつひとつが、本当に楽しそうに踊っているかのように見える。

思わずポカンっと口を開き、その様子を見つめた。

まるで、雪の花の妖精が、自分を励ましているかのように感じられた。

「――ルック……」

「……何」

憮然とした声で、ルックは答える。

フッチは気づいた。

今の風に、魔法の力が働いていたことに――。

フフッとフッチが笑うと、ルックは不機嫌そうに顔をそらした。

「ありがとう――」

「……なんのこと」

「ううん、ちょっと、言ってみたかっただけ」

そのことを言うと、ルックはもっと不機嫌になって、怒り出すだろう。

だから、フッチは特に何も言わず、また、静かに目を空に向けた。

いつか遠くない未来、自分はあの白い竜に乗って、再び空を自由自在に飛び回るだろう。

その時には、ルックも一緒に、今の風花みたいに空を舞うように飛んでみたいな、と、そう、思った――。



【END】



……いきなり思い立って、1時間くらいで書いてしまいました(汗)
思いっきり、季節はずれです。すいません。

「竜洞の周囲に雪はふるのだろうか?」
「一体、この5人は何処を歩いて、何処へ行こうとしているのか?」

自分でも突っ込みたいところがたくさんあるのですが……、
まあ、なんか、満足したからいいかな。(オイ)
ルクフチではないつもり。
(つもりです! まあ、別にそれでもいいのですが……)

ちょっと昔を思い出してセンチになってるフッチを、
兄のような気持ち(…なんか違和感が(汗))で見守るルック、
といった感じのつもりです。


(05.02.16)




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