僕たちの大きな運命の始まりになった、あの夜のキャンプ後。

すでに、跡形もなく片付けられ、あの時笑いあった仲間たちの顔もほとんど思い出せない。

それでも、この地であったことは、忘れることはできない。



この奥に、ジョウイがいる。

ぎゅっと唇を噛み締めた――。




平凡な幸せ (004.あの街に帰ろう)




「もう、戦いたくなんかないんだ!」

僕の声は、ジョウイには届かなかった。

ジョウイは、僕に向けて棍を振るう。

僕はただ、それを受け止める。

「リオウ! なぜ、かかってこない!?」

ジョウイが叫ぶ。

できるわけない。



たった一人残された、僕の幼馴染、――僕の家族。



……仲間は大勢できた。

もちろん、彼らのことも大好きだ。

でも――。

やっぱり、ジョウイと、ナナミは、僕にとって、『特別』なんだ――。

ジョウイは、数回僕に打ち込んできて、そして倒れた。

「ジョウイ!!」

叫んで走りよった僕が見たのは、ジョウイのこれ以上ないくらい、青ざめた顔。

紋章のせいだと、ジョウイは言った。

認めたくなかった。

ジョウイが、このまま死んでしまうなんて!

「ジョウイ!!」

そして、奇跡は起こった。

僕らを歴史の激流に飲み込み、振り回し、そして争わせた運命が、ようやく、僕たちに光を与えた。

ジョウイは見る見る回復して――、そこに現れたシュウが、ナナミが生きていることを教えてくれた。



僕たちは旅立つ。

今までの、つらい事、悲しい事をわすれることはできない。

それでも、3人で、共に過ごす事の喜びを感じている。

ずっと、このまま3人でいられるとは思っていない。

でも、3人が、それぞれの道を見つけるその時まで、一緒にいたい。



「リオウ! ジョウイ!! もう、朝だよ!! おっきろー!!」

いつもの朝の始まり。

ナナミが、僕とジョウイを起こしに部屋へ飛び込んでくる。

「ナナミ〜……。まだ、早いよ〜。」

半分寝ぼけた声で、僕が返すと、次に、ボスッという音とともに、ベッドに軽い振動が伝わってきた。

「ナ〜ナ〜ミ〜。」

半分泣きそうな声で、ジョウイの抗議の声が聞こえる。

どうやら、ナナミは、今日はジョウイのベッドに先に飛び乗ったらしい。

「いい天気だよ!!」

言いながら、ばさっと、布団をはぎとる音がする。

「寝てなんかいたら、もったいないじゃない!!」

「ナ〜ナ〜ミ〜!!」

ジョウイの抗議の声もなんのその、ナナミの「さあ、遊ぼうよ」攻撃は、さらに続いている。

僕は、必死で布団をかぶって、寝たふり、その声を聞こえないふりをする。

程なくして、訪れた心地よい睡魔に、そのまま身を任せようとした僕に、次に、ナナミの声が飛んできた。

「リオウ! リオウもいい加減、起きなさ〜い!!」

「……眠いよ〜。」

「だ〜め!!」

ナナミは容赦なく、僕の布団も剥ぎ取った。

……僕、これでも、軍で一番強かったんだけどなあ〜。

ナナミには、一生かなわないらしい。

「…………。」

「さあ、さっさと顔洗って! ほんとに、ものすっごくいい天気なんだから!! みんなで、ピクニックに行こうよ!!」

ナナミのその張り切った様子に、あきらめて、目を覚ましていたらしいジョウイの苦笑いが聞こえてきた。

「リオウ。あきらめて、起きろよ。」

……なんだよ、ジョウイだって、先に僕が起こされてたら、きっと、今の僕と同じ状態になってたはずなのに。

軽く、心の中で反発してみる。

「ほら! お姉ちゃん、張り切ってお弁当作るからね!!」

「「………………。」」

そのナナミの言葉に、僕もジョウイも一瞬黙ってしまった。

「ほら、行くよ!」

ナナミが、僕の腕を引っ張り、体を起こさせた。

「ジョウイも!」

ナナミは、右手をジョウイの腕に組み、左手で僕の手をつかんで、スキップしながら部屋を飛び出そうとする。

僕は、寝ぼけ眼をこすりながら、苦笑する。

ジョウイも笑っている。



幸せだ。

こんな何気ない日常。

少し前まで、本当に、こんな日が、再び訪れるなんて、想像もしてなかった。

僕たちは、もう、悲しい別れや、つらい戦いなんかに、おびえることはない。

次にもし、別れがくるとしても、それは、きっと、つらい別れなんかじゃないから。



「今日は、ピクニックに行って、ここに帰ってくるけど、また、明日から、出発しようね!」

ナナミの言葉に、僕らはうなずく。

僕らの旅は、まだ、始まったばかり。

しばらく、各国を旅して、いろんなものを見て、遊んで、それから――。

あの街に戻ろう。

僕らが出会い、そして育った、あの街へ。

そして、また、そこから、出発するんだ。

僕らのための、未来に向かって。

「よーし! 今日も、張り切るわよ〜!!」

ナナミの元気な声は、安心する。

今日も、一日、とても楽しくなりそうだ。



ナナミもジョウイも、もちろん僕も。



本当に、幸せだ――。



【END】



これまた、194にリクエストもらってたやつです。
…ですが、おそらく194は、ギャグ系を期待していたのではないかと…(汗)
どうして、こうなるんでしょうねえ?
真田がシリアス好きなのが、大半の原因なのでしょうが(苦笑)

サイト、2周年記念(3)といたしまして、文章をフリーにしたいと思います。
できましたら、お持ち帰りタイトルは「平凡な幸せ」でお願いします。

また、イラストごと(イラストだけでも可)、気に入ってくださった方は、真田までご連絡下さい〜。
イラストは、真田のいとこ194作、真田色塗りです。
((いらっしゃらないかしら…笑)
もれなく、差し上げたいと思います。



(05.06.24)



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