045.哀しみの色







ぼくは、月明かりの下、屋上にたたずむ彼を見つけた。



ぼくは、見ていた。



ただ、見つめることしかできなかった。



彼の、その力のない背中を・・・。



ぼくが新しい竜を、ブライトを得ることができたきっかけを、

作ってくれたのは、彼だった。






あの日、ジョウストンの丘で、彼は、親友と再会した。



和平交渉が行われるはずだった。



そう、その約束だった。



彼は、その言葉を信じ、正面からどうどうと会いに行ったのに・・・。




彼は、親友に裏切られた。





「・・・リオウさん。」

「あ・・・、フッチか・・・。・・・何か用?」


彼は、笑った。

無理をしている。

痛々しいくらいに。


「・・・元気を出してください。」


(違う・・・。こんなことが言いたいんじゃない。)


ぼくは、歯がゆく思う。

力づけたい。

でも、こんな言葉じゃ、むなしく聞こえるだけだ。



そんなこと、よくわかっている。



わかっているんだ。



「・・・ごめん、心配かけたね。」



謝ってほしいわけじゃない。

言葉が見つからない。

「キュイイィ・・・?」

ぼくの腕の中で、ブライトが首をかしげて鳴いた。



いつもと違う、ぼくの様子に気づき、心配してくれているのか。




ぼくが、親友のブラックを亡くしたとき、皆が心配してくれた。

励ましてくれた。



でも、その言葉がすべて意味のないものに聞こえた。



『今更何を言ったって、ブラックは戻ってこないんだ!』



うるさいと思った。

皆、心配してくれているようで、結局、何もぼくのことをわかっていないと思った。

理解なんてできないと・・・。



でも、違う。


違ったんだ。


あのとき、ぼくは、自分の感情しか見えていなかった。


泣いてもいい。


叫んだっていい。


そこで、立ち止まってはいけないんだ。



悲しい気持ちのまま、ずっとそのままでいたら、何も変わらない。



無理をして笑っていたら、気持ちはそこに置き去りにされてしまう。



だから・・・。


ぼくに新しい出会いが訪れたように。



ぼくの世界が広がったように。



彼にも、前に進んでほしい。


「ハンフリーさんみたいになりたいな・・・。」


早く大人になりたい。


傍にいるだけで、相手に安心感を与えられるような・・・。



そんな、頼れる、大きな人間になりたい。


「フッチが、ハンフリーさんみたいに?」

リオウさんは、目をまん丸にして驚いている。

「おかしいですか?」

「・・・ううん、おかしくなんかないよ。ちょっと、意外だっただけ。」

クスリと彼は笑った。

さっきよりは、ましな笑いだった。

「早く大人になりたいんです。皆を支えることができるような。」

「うん、わかるよ。」


彼は、そういいながら空を見上げた。


雲がなく、とても綺麗な月が目に入る。


黄色い月は美しいと思う。


同時に、とても冷たくも感じる。


月明かりの下の彼は、そのまま、気づけば暗闇に溶けていってしまうんじゃないかと、

思うくらいにはかなげだった。


立ち去ったほうがいいのかもしれない。


ぼくがいないほうが、彼は気が楽かもしれない。


そう、思ったけど、どうしてか、立ち去ることができなかった。


無言で彼の隣に座り、同じように空を見上げる。



「・・・綺麗ですね。」

「ああ。」

「でも、綺麗すぎて目に痛いです。」

「ああ。」

「・・・リオウさんは、月がお好きですか?」

「ああ。」

「・・・・・・リオウさん?」


力なく、相槌しか打たない彼を不思議に思って、目を向けた。



「・・・・・・・・・!!」



彼は、静かに空を見上げたまま、涙を流していた。

立ち去らないといけない・・・。

気づかないふりをして・・・。

「キュイ?」

ブライトが、また、不思議そうに鳴く。

さっき、立ち去っておけば良かった。

そうすれば、彼は心置きなく声を上げて泣けただろうに・・・。

唇をかみしめ、ぼくは下を向いた。





どのくらい、時間がたっただろう。

ふと、肩に温かい重みを感じた。


「・・・リオウさん?」


彼は、静かに、ぼくの肩に頭をあずけて寝息を立てていた。

顔には涙の後が残る。

とても、寂しそうな、つらそうな顔に見えた。


「リオウさん。」


小さな声で、何度も名前を呼んでみた。


少しでも、彼の気持ちが和らぐように・・・・・・。


彼は涙を流すことで、気持ちが楽になっただろうか?


「明日になったら、また、元気な顔見せてくださいね。」



早く大人になりたい。



皆を、そして、彼を、支えることができるような人間に。

大きな責任をもつ、彼の荷を、少しでも軽くできるように。

肩を並べて歩けるように。

少しでも、早くなりたかった。


「・・・無理はしないでくださいね。」


ぼくたちが・・・、こんなにも大勢の仲間が、あなたにはいるのですから。


すこしくらい、休んだっていい。

また、次の日から、歩けばいいのだから。


「おやすみなさい。リオウさん。」


「キュイイイイイ。」

「ブライトもね。」



みんな、おやすみなさい。






【END】




・・・ごめんなさい。
途中から、何を言いたいのかわからなくなってきました。
哀しみの色っていったらやっぱり、
青系統かとも思ったのですが、
今回?は、黄色・・・ってコトで。
明るい黄色ではなく、冷たい感じがする硬質な色です。

(04.09.08)


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