061.裏切り










裏切られた、と思った。






いつも一緒にいた。

身分なんて関係なく、親友だと、弟のようだと思っていた。

いつも、僕の後についてきて、僕の意見に反対したことなんてなかった。

それが、当たり前だと思っていた。





「離脱しろ!」

海賊に奇襲され、紋章砲の攻撃により、僕は冷静さを失った。

「スノウ! 駄目だ!! 僕たちは、あのオラーク海運の護衛なんだ!

あの船が安全なところに避難するまで、

そんなことはできない!」

カナイが叫んだ。


『そんなことはできない。』と。


はっきりと意思をもった、強い瞳で。

力強い、言葉で。




今ならわかる。

僕を、励まそうとしていたのだ。



でも、恐怖に負けた僕にはそんなことに気づくことなどできなかった。





気づいたいまでも、素直に認めることはできないけれど。





必然的に、『カナイは僕に逆らった。』と感じた。

こんなヤツだったのか、と勝手に失望した。


部下の一人が駆け寄ってきて、僕に指示を仰いだ。

「取舵だ! 全速離脱!!」

僕は、即座にそう答えた。

「し、しかし・・・。」

「取舵をとってくれ! 早くしろ! もういやだー!!」


命令に従わない部下に、憤りを感じる。

なぜ、わからない。

僕たちじゃ、勝てないに決まってるじゃないか。



「スノウ、いいから落ち着いてくれ! 

君は怪我をして気が動転してるんだ!! 

大丈夫、君なら勝てるさ!」




カナイの声にも腹が立つ。

気が動転しているのはどっちなんだ!

さっさとこの場を離れないと・・・。



「離脱だと言ってるだろ! 早くしてくれ!!」

「スノウ!」








黙れ。

この船の艦長は僕だ。



いくら、剣の腕がよかろうが、

いくら団長の信頼が厚かろうが、

この場で僕の命令に逆らう権限は、

カナイ、

君にはないんだ。







目の前の部下がようやく指示に従う気になったのか、

きびすを返そうとしたその時。



カナイの声が、それをとめた。




「・・・戦うぞ! 各自戦闘の態勢に入れ!」




何を言っているんだ。

艦長は、指揮官は、僕なんだぞ。

誰が、カナイの言うことなんて・・・。



「は、はいっ!!」

もっと信じられないことに、部下は、嬉しそうにカナイに向かって返事をし、

敬礼をして駆け出した。



「な、待て! 誰の命令を聞いてると思ってるんだ!!」


僕の声など聞いていない。

指示が全員に伝えられ、着々と応戦の準備が進められている。


「何のつもりだ、カナイ。」

「・・・スノウ。 ゴメン。でも、今は落ち着いて。

船室で、手当てをうけてくれないか?」




カナイの声が、どこか遠くで聞こえた気がした。





なんだよこれ、 なんなんだ。

どうして、僕の思い道理にならない。

どうして、僕の命令が最優先だということがわからない。

どうして、最善の方法を皆が誤っているんだ!!



カナイの気配が、遠ざかった。

準備に行ったのか?

ぼんやりと、戦争がはじまるのを僕はみていた。

なぜ、こんなことに・・・?





・・・・・・・・・・・・カナイ。

カナイのせいだ。



「だめだ・・・この船は沈む・・・」




ボクハ、

マダ、

シニタク、

ナイ。




もう、あとは、ほとんど無意識の状態で、僕は避難艇に乗り込んだ。

一心不乱に、船をこいだ。

腕の痛みなど、忘れていた。

早く、離れないと。



早く。

はやく。

ハヤク・・・。



そう、長くこがないうちに、グレン団長の船に拾われた。

なぜか、叱責を受けた。

なぜ?

命令を反したのは、カナイ、なのに・・・?



あの後、カナイは無事に戻ってきた。

全くの無事、というわけではなかったが・・・。




騎士団での僕の評価が地におち、逆に、カナイの評価は天にのぼった。




気にするな。と自分に言い聞かせた。

カナイは単に、運がよかっただけなんだ。

次で、僕の信用を取り戻せばいい。

気にしたら負けだ。



ソウ。


負けなんだ・・・。

言い聞かせるたびに、自分の中に黒い感情がわきあがるのを感じる。



・・・どうして、カナイのせいで、僕がこんな気持ちにならなければならない?



どうして・・・?



カナイ、なんかのせいで・・・・・・・・・・・・・・・。



カナイなんか、いなくなればいい・・・。



団長の死によって、絶好の機会がおとずれた。



さようなら、カナイ。


二度と、僕の目の前に現れないでくれ。




[END]








・・・裏切ったのはどっち?
幻想水滸伝の初書きが、スノウ。
しかも、なんか黒い・・・?
暗いし・・・。
私の心がすさんでるのかしら・・・。
スノウには、序盤かなり笑わせて?もらいました。
突っ込むとこ多すぎ。
スノウのファンのかたには、申し訳ありません。
最後、仲間になったとき、もっとましになると思ってたのになあ・・・。
残念。

(04.09.04)


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