彼は言った。
「神を殺す」・・・・・・と。
072.神を殺す
グラスランドの荒野に一人、たたずむ少年の姿があった。
乾いた風が絶えず吹きつけ、砂埃が舞い上がる。
少年は、赤い一風変わった武道着を着込み、
薄茶けたボロボロのマントを身につけ、
皮手袋を装備した右手には、黒い棍。
頭には緑色のバンダナを巻いていた。
マントとバンダナは風にはためき、
バンダナは裏地の色なのか、紫の色が時折見えた。
少年は、ただ、そこに立っていた。
目を閉じ、その整った顔をすこし上向き加減にしたまま、
微動さえしていなかった。
彼は、風を感じていた。
いや、捜していたのかもしれない。
少年を包み込み、癒してくれる、
あの、優しい風を・・・・・・。
刻はもう、夕暮れに差し掛かり、辺りは闇にのまれようとしていた。
常人ならば、このような時刻に、
モンスターの闊歩する荒野に立ち入ろうとはしないだろうし、
ましてや、留まろうとは絶対にしないだろう。
しかし、その少年は、全く気にもしていないようだった。
・・・どのくらいの時がたったのだろうか。
辺りはすっかり闇に閉ざされ、10歩先の足元さえ危うい程となった。
そのとき、フ・・・と、絶えることなく吹き付けていた風が止んだ。
同時に、少年が瞳を開けた。
まぶたの下に隠れていた瞳は、
夜の闇を映したよりさらにまだ黒い、漆黒の闇。
どこまでも深く、吸い込まれてしまうような感覚を促す、
不思議な光を湛えていた。
少年は、宙に向かい親しげに微笑んだ。
否、少年には見える、目の前にいる、大切な『誰か』に向かって。
「君は、心のままに生きたのか?」
『運命』という言葉を厭い、抗い、その右手に宿る『神』を殺すことで、
世界を救おうとした、優しく、残酷な『破壊者』。
止まっていた風が再び吹き、少年の周囲の空気を動かした。
少年はまた一人、闇に閉ざされた荒野に立ち尽くす。
・・・答えは得られたのだろうか?
少年は、祈る。
友の魂が、安らかであるように・・・と。
少年の友である、永遠の風の少年は、
真実、永遠の風となったのだ・・・。
【END】
(04.10.30)