「今日と言う今日は、絶対にゆるさねえ!!」

デュナン湖のほとりの古城を改築した、同盟軍本拠地の兵舎の一室から、元気のいい少年の怒りの叫び声が聞こえてくる。

「サスケ、ちょっと落ち着いて。」

それをなだめるような、声も、まだ少年のようだった。

「これが、おちついてられるか――!!」

先ほどよりも更に大きく、頑丈な石壁の城を、震わすかのような叫びが、城中に響き渡り、その兵舎を偶然歩いていた一般兵士たちは、おもわず飛び上がって身をすくめた。




078.仲良し




「ルック! おまえ、いいかげんにしろよな!!」

サスケは、フッチが止めるのも聞かず、手当てが終わったその足で、いつものごとく石版の前に澄ました顔で立っている、ルックの元へと向かった。

「うるさい。」

「な、ん、だ、と――!!」

サスケは今にも血管がぶちぎれそうなくらい、顔を赤らめた。

「うるさいって言ったんだ。……フッチ、それ、持って帰って。」

「え、えと……。」

「それ、だと〜! おまえ、おれをなんだと思ってるんだ!!」

「…………バカで、やかましい、ガキ。」

「おまえ――!!」

「ルック、サスケも! やめなよ!!」

鬱陶しいとばかりに顔をしかめる以外、全く様子がいつもと違わないルックと、どんどん怒りをヒートアップさせていくサスケ。

サスケは今にも、ルックに殴りかかりそうな勢いで、フッチは必死にサスケをなだめる。

「サスケ、お願いだから、落ち着いて。……ルック! サスケを挑発しないでくれよ!!」

「……そっちが勝手に、さわいでるだけ。」

ため息をつきながら、ルックがそう言うと、さらにサスケが噛み付かんばかりに、ルックに対してわめき散らす。

「ルック!!」

フッチの言葉など、ルックもサスケも聞いていない。

今度はフッチがため息をついた。

「何で、おまえは腹が立たないんだ!」

「え?」

しばらく、どうしたらいいのかわからず、フッチが状況を見守っていたところ、サスケの怒りの矛先がフッチにも向いてきた。

「えーと、だって、……ルックがそういう性格だって、知ってるから――。」

このケンカの原因は、美少年攻撃と名づけられた協力攻撃。

この3人で行うものだが、ルックはこの名前が気に入らないのか、それとも組んでるメンバーが気に入らないのか、毎回敵とともにサスケとフッチにも魔法攻撃を喰らわすのだ。

……おそらく、ルックの気に入らないのは前者、なのだろうが……。

サスケの怒りもわかる。

けど、ルックに抗議をしたところで、無駄なのだということも、フッチにはわかっていた。

「ふん。わかってるじゃないか。」

案の定、ある意味失礼とも思えるフッチの言葉を、あっさりルックは肯定した。

フッチは再びため息をついた。

サスケは、怒りのあまり言葉がでないのか、口をパクパクさせている。

「すごい、にぎやかだね。」

突然、後ろから声が聞こえて、サスケとフッチは驚いて振り向いた。

そこには、リオウが立っていた。

誰かに呼ばれたのか、それか、偶然通りかかりでもしたのだろう。

周囲の人が遠巻きに見ている中、のんきに近寄ってきた。

「……ちょうど、良かった。リオウ! こいつとの協力攻撃、やめさせてくれ!!」

サスケがいい機会だとばかりに、わめくように訴えた。

「どうして?」

「『どうして?』だと!? いっつもいっつも後ろから、魔法で攻撃される身にもなってみろ!!」

「ぼくからも、お願いします。このままじゃ、サスケの気が治まらない。」

多分ムダだろうなとは、思いつつ、フッチはサスケの弁護に回る。

「ダメ。だって、ぼくが気に入ってるから〜。」

全く答えになっていないような、答えを二人に返すと、リオウはルックを見た。

「いいよね? ルック〜。」

にっこりと極上の笑みを浮かべるリオウに対して、ルックは眉間のしわをさらに濃くして、大きなため息をついた。

「……好きにすれば。」

おそらく、リオウには何を言ってもムダだと悟っているのだろう。

天然なのか、それとも確信犯なのか……。

いや、確実に後者であろうリオウは、そのルックの答えを聞くと満足そうに頷いて、呆然とするサスケとフッチにひらひらと手を振りながら、石版の脇にある階段を上っていく。

「あ、待てよ! リオウ!!」

「……ムダだと思うよ、サスケ。」

なおも呼び止めようとするサスケを、あきらめの混じった声でフッチが止める。

リオウは聞こえているだろうに、全くサスケの言葉に反応することなく立ち去っていく。

サスケは、その様子を見て、キッとにらみ付けるようにまたルックの方を見た。

「ルック! おまえ、何で認めるんだ!!」

「…………。」

もう、何も答える気もおこらないのか、ルックはチラリとサスケを見はしたが、すぐに視線をはずし、サスケを無視することに決めたようだった。

「〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」

完全に頭に血がのぼりっ切ったサスケは、ついに懐にいつも忍ばせてある蒼流凶星に手を伸ばした。

それに気づいたルックが、ガスト・ロッドを握る手に力を込めたのがわかった。

……ここで、フッチが切れた。

ドカッ!!

鈍い音がして、サスケが床に倒れる。

虚をつかれたらしく、ルックが珍しく目を丸くした。

それをしたのが、フッチ以外の仲間だったら、ルックも驚きはしなかったのだろうが、フッチが手を出したということ自体に目を疑ったのだろう。

「痛……。」

サスケが殴られた頭を抑えながら立ち上がる。

「……フッチ! いきなり……。」

文句を言おうと顔を向けたサスケも硬直した。

「二人とも、いいかげんにしてね。」

にーっこりわらったフッチに、サスケはコクコクと首を振り、ルックも「……わかった。」と頷いた。

これ以降、協力攻撃でルックに攻撃されるのは、サスケのみになったとか何とか……。



――後日。

「ね? 結局、仲いいんだよ、かれら。」

こういったのは、もちろんリオウ。

それを聞いた3人(特にサスケ)が、抗議したのは、言うまでもない。

「どこがだ――!!!!」


【END】



美少年3人組みのじゃれあうところを書きたかったんですが…。
あれ?って感じです…。
フッチがなぜか、こんなキャラに…(汗)

(05.03.19)



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(おまけ)



「だから、大丈夫って言ったでしょ?」

城主の部屋でリオウが目の前に立つシュウに向かって、いつものように笑いかける。

『いつものように』というのが曲者なのだが……。

シュウは、深くため息をつき、首を振った。

そして窓の外、眼下に広がる中庭で、ブライトに優しく微笑むフッチの姿を捉えた。

「……彼が二人をいさめたというのが、正直信じられませんが……。」

「ま、ね……。ぼくもその点に関しては、ちょっとびっくりしたけどね。でも、大丈夫だと思ってたし。」

「はあ……。」

おそらく、何の根拠もなく勘だけでそう判断したのであろう主に、シュウはまた、疲れたようにため息をついた。