「え……? 『美青年攻撃』……? ……おれ……が……?」

「ええ、そうです。あとは、フレッドさんと、フランツさんにお願いしようとおもってるんですけど。」

今回の軍主であるヒューゴに、そう、言われたとき、一瞬、頭が白くなった気がした。





089.協力攻撃





「……美青年攻撃ねえ……。」

協力攻撃と言えば、思い出すのは、前回の宿星の時にやった、『美少年攻撃』。

あれは、中々壮絶だった。

――が、それ以前に、どちらかと言うと、普通に分類されると思われる自分を、美少年という区切りで協力攻撃に持ってくるなんて、リオウも何を考えているんだと思ったものだった。

「それを、今度は、『美青年』……。」

確かに、既に少年という年齢はとうに過ぎ去ってしまったが、また、『美』を付けられる分類にいれられるとは思いもしなかった。

「『美青年』と言えば、フリックさんと……、アレンさん、グレンシールさんに……。……カミューさんにマイクロトフさんだったよな〜。」

その2回の組合せから、完全に、宿星から選ばれるものだと思い込んでいた。

「『宿星』か……。」

つぶやいて、苦笑する。

「そういうわけじゃないんだな。」

フッチはもう一度そうつぶやくと、この城での自分の定位地になりつつある、船の甲板の手すりにもたれかって、ただ時間の移り変わりとともに表情を変える湖を眺めていた。



そのとき――。



「フッチどの。」

後ろから声をかけられて、フッチは軽く驚き、苦笑した。

人が近づいてくる気配を、全く感じていなかった。

「なんですか?」

振り向くと、そこには、フランツが立っていた。

「いえ、……その……。協力攻撃というものを任命されまして、ひとまず、ご挨拶にと……。」

「ああ、そうでしたね。こちらこそ、よろしくお願いします。」

如才ない笑顔を浮かべながら、右手を出したフッチに、フランツも少しぎこちない笑みを浮かべながらも、手を出して、がっしりと握手をした。

「ああ――!! ずるいぞ、フランツ!!」

そこへ、けたたましい大声が聞こえてきた。

その元気な声と、特徴的な話し方、言わずともわかる、マクシミリアン騎士団、団長のフレッドだった。

「フレッド……?」

声で、顔を見る前に、誰かはわかったのだが、言われた言葉を不思議に思い、フッチは首をかしげた。

見れば、フレッドは顔を紅調させ、何かに憤りでも感じているのか、ふてくされた表情をし、肩を上下させ、息も荒い様子で仁王立ちになり、今にも飛び掛ってきそうな雰囲気だった。

わけがわからなく、ひたすら首を傾けるフッチに、目の前のフランツが苦笑いをした。

「早いもの勝ちだろう? フレッド。」

「お前が、イクに頼んで、おれの行く手を遮ったんだろう!?」

「そんなことは、していない。」

2人の言っている事も、よくわからなくて、フッチはますます頭がこんがらがった気がした。

「すいません、フッチどの。たいしたことではないので、気になさらないで下さい。」

フランツがそう言うので、まあ、いいかと、フッチは苦笑した。

「全然、たいしたことではないことはないぞ!!」

そう言って、フランツとフッチの間に、フレッドが割り込んできて、フッチの手を両手で握りしめ、ぶんぶんと上下に振った。

「フッチ! 協力攻撃、よろしく頼む!! ぜひとも、この俺の力を存分に使ってくれ!!」

「あ……、ああ。こちらこそ、よろしく。けど、俺たちは、『協力』するのであって、誰かが誰かを『使う』のではないと思うけれど?」

フレッドの勢いに押され気味になりながらも、フッチは笑顔を浮かべた。

そのフッチの言葉に、満面の笑みを浮かべながらも、フレッドは首を振った。

「いいや! この3人の中で、最も腕が立ち、その上頭も切れるのは、フッチだ。だからこそ、フッチが上にたつのが望ましいことだ!」

「そんなことは、ないですよ。……フレッドも、そう、思いますよね?」

いつもにまして、暴走気味のフレッドから逃れるために、フランツに同意を求めるフッチに苦笑しつつ、フランツもまた首を振った。

「いいえ、フッチどの。フレッドの言う通り、協力とはいっても、やはり指示を出したりする人は必要です。それには、この3人の中では、フッチどのが最も適任だと思います。」

2人からそういわれて、フッチは、どう答えたらいいのかわからず、困惑してしまった。

「そうだぞ、フッチ。それに、おれは、祖父からおまえのことを聞いてから、ずっと会ってみたいと思っていた。こんな風に、共に戦えるなんて、とても光栄だと思っている。本当に、嬉しい。」

こんな風に、正面から好意をぶつけられて、フッチは正直戸惑った。

けれど、勢い余って空回りすることもあるが、裏表のないフレッドの真っ正直な性質は、とても好ましかったので、フッチは次の瞬間、フワリとした笑みを浮かべた。

「ああ、おれも、君のことはマクシミリアンさんに聞いていた。おれと、そう歳の違わない孫がいるんだと……。おれも、君にあえて嬉しいよ。」

『フッチのような、強い騎士に、人間として立派な者に、なって欲しいものだがなあ!!』と、マクシミリアンが癖のように言っていた言葉は続けなかった。

当時も、言われるたびに否定していた。

自分は、彼がいうような、強い騎士……立派な人間には、きっとなれていない。

「そうか! それは嬉しいぞ!!」

尊敬する祖父が、自分のことを、いつも覚えていてくれたのだと言うことを知って、フレッドは本当に嬉しそうに笑った。

「……2人で、おれにわからない話をしないで欲しいんですがね。」

フランツは、すこしばかり面白くなさそうな顔をして、わざとすねて見せているようだった。

その2人に、フッチはまた苦笑する。

「おまえは、わからなくていいんだ!」

「……正義の騎士がそんなことを言っていてもいいと思うのか?」

「おまえに対しては、かまわない。」

「……どういう理屈だ? それは……。」

2人は、フッチをはさんだまま、楽しそうに言い合いを始めてしまった。

その様子を見て、フッチは昔を思い出す。

フッチのよく知っている美青年攻撃のメンバーも、どこか、こんな風なじゃれあいを好んでいた。

そして、それによく、フリックさんが巻き込まれて……。

そんなことを思い出し、フッと表情を柔らかくしていたフッチに気づいたフランツもまた、表情を和らげた。

「見ろ、フレッド。おまえがあんまりバカなことばかり言うから、フッチどのがあきれてしまったぞ!」

「なに!! おまえのせいだろう!! な!! フッチどの! そうだろう!?」

フランツの冗談を、本気にしたのか、あせったようにフレッドがフッチに詰め寄る。

「あきれてなんかいないよ、フレッド。フランツも、フレッドをからかうのは止せよ。」

「なに!?」

「ああ、やはり、お見通しか。ちょっとつまらないな。」

その言葉に、またフレッドがフランツに食って掛かる。

ある意味、漫才のような2人のやりとりに、フッチはずっとほほえましさを覚え、後は、彼らの気が済むまで、その場で2人のやりとりを楽しむことにしたのだった。





「で? 結局、その攻撃、どうなの? フッチ。」

その協力攻撃を実践でヒューゴがしばしば使うようになったという噂を聞いたアップルが、廊下でばったり会ったフッチに、とても楽しそうに聞いてきた。

「……うん……、まあ……。……一応は、問題、ない、かな?」

ちょっと困ったように、答えるフッチに、アップルは笑った。

「よかったわ。楽しそうで。」

「楽しい!?」

「ええ。気が付いてない?」

「……何をですか?」

アップルに言われたことに、どういうことかわからず、フッチは真顔で問い返した。

たしかに15年前、自分がルック、サスケとともに行った『美少年攻撃』に比べると、肉体的にも精神的にもかなりましなもの

ではあるが、使った後、毎回毎回、2人が『どちらの方が役立ちました?』の質問攻撃に、フッチはうんざりしていたのだ。

「フッチ、あなた、いつもこの攻撃を指名されたとき、2人に思い切り飛び切りの笑顔で笑ってるのよ? ……女性陣の中では、その笑顔がとても人気よ?」

「…………………。」

後半の方はおいておいて、フッチは真剣に悩んだ顔をした。

自覚が、なかった。

「よかったわね、フッチ。とても楽しい攻撃がまたできて。」

「……………。」

アップルの『また』という言葉に、いくらか釈然としないものを感じたフッチだったが、アップルがとても嬉しそうにニコニコ笑っているので、そういうことにしておくことにした。



そのとき――。



「フッチ!!」

「フッチどの!!」

噂の2人がフッチの姿を見つけて駆け寄ってきた。

「ここにいらっしゃいましたか! ヒューゴどのがお呼びです。」

「さあ! 行こう!! フッチ。今日こそは、おれの方がフランツより上だということを見せてやる。」

「せいぜい、がんばればいいさ。それでは、アップルどの、失礼します。」

「ええ、頑張ってね。……ほら、笑ってるじゃない、フッチ。」

「え?」

言われて、フッチは思わず、自分の頬を触った。

……確かに、自分の表情が柔らかい笑みを浮かべていることに気が付いた。

「お兄さんになれたみたいで、嬉しいのね? いつも、弟だったから。」

すれ違い様に、フッチにだけ聞こえるようにそう言って、ウインクして去っていくアップルの後ろ姿を呆然と、フッチは見つめていたが――。

「――――!!!!!」

急に言われた言葉を理解して、フッチは自分の顔が熱くなるのを自覚した。

そう、この感情はまさしく――。

「どうかしたのか? フッチ?」

「……顔が赤いですが、体調が?」

フレッドとフランツが、急に顔が赤くなったフッチを、不思議そうに、覗き込んでくる表情を見て、フッチはアップルの言った言葉を完全に認めてしまった。

「な、なんでもないよ、2人とも。さ、さあ、ヒューゴが呼んでるんだろ? さあ、行こうか。」

「「ああ!!」」

声をそろえて、フッチの後をついてくる2人を、フッチはちらりと返り見た。

それに気が付いた2人は、二コリとフッチに向かって笑いかける。

フッチもその笑顔に笑い返した。

(もう、これはとことん認めるしかないな。)

そうして前を向いて、心の中でつぶやく。

そのつぶやきは、疲れたような響きを持っていたのだが、フッチの表情はそれを裏切るかのように、とても晴れ晴れしい、幸せそうな笑顔を浮かべていた――。




【END】




幻想水滸伝強化期間 第5作目。

…過去の作品(書き掛け)を引っ張りだして完成させたもので、多分、前に思ってた結末と違う…(汗)
あんまり題名とあってないなあ…。
申し訳ないです。
何を書きたかったんでしょう…?
思いっきり駄文です…m(_ _)m



(05.08.30)



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