「おじさん、何してるの?」
シズは、森の中で不審なおじさんの集団を見つけた。
1人は眼鏡をかけた、白髪まじりの髪、髭の神経質そうではあるが、どこにでもいるようなおじさんだったが、その他があまりにも怪しくて――。
ニンマリとこみ上げる笑みを無理やり抑えて、その眼鏡のおじさんに声をかけたのだった。
099.えれべーた
「なんじゃ、おまえは? もちろん、企業秘密に決まっておろう!! ……ああ、邪魔だ邪魔だ! あっちへ行け!!」
そう言って、シズをシッシと犬か猫でもあしらうかのように、あっちへ行けと手だけで示した。
その対応に、少しばかりムッとしたシズだったが、そのまま立ち去る気はまったくなくて、木の下に座って、その様子を見ていた。
「こりゃ! 休むな!!」
「タイミングがずれておるぞ!」
「……全く、全員がぴったりと同じように動かんといかんのに……。」
その眼鏡のおじさんは、目の前の怪しげな男たちに、次から次へと叱責を飛ばし、ブツブツと何かをつぶやいている。
シズはその様子をずっと見ていた。
怪しげな男たちというのが、本当に、怪しくて……。
顔は布のような仮面で隠されて、体は筋骨隆々ではあるが、半裸のままで。
そして、何より、全員が非常に大きくて重そうな石にくくりつけられたロープを、上げたり下げたりしているのだ。
そのタイミングをあわせているのは、わかるのだが、何のためにしているのかわからない。
「こりゃ! バーバリアンども! ほんと、役立たずじゃ!!」
ブツブツ言ってるおじさんも気になるが、そのバーバリアンと呼ばれた男たちが、なぜこうも黙っておじさんの言うことを聞いているのかも気になった。
男たちは、余程この作業を長い間続けさせられていたらしく、全員が全身汗に濡れ、そして荒い息をしているようだった。
「……なんじゃ、なさけない。……休憩じゃ。」
「……………。」
男たちは、ホッとしたように、全員が全く同時にその場にバタッと倒れた。
「それじゃ! そのタイミングなのじゃ! なんじゃ、できるんじゃないか!! ……なんじゃ! 何をサボっておる!! さっさと立って、作業を続けないか!!」
(……おじさんが、さっき休憩って言ったんじゃ……?)
というか、文句を言うだけで、どこをどう直せばいいとか、このタイミングだとか、指導的なことを全く言わないおじさんが悪いんだと思う、と、シズは冷めた目で見ていた。
シズが首を傾げている間に、バーバリアン達は、いつものことなのか、よろよろと立ち上がって、また、シズには全く意味のわからない作業を開始した。
何がどうなったのかはわからないのだけど、先程より揃っているということで、眼鏡のおじさんが、満足気だった……。
バタッ……。
「………………。」
とうとう体力が切れたのか、バーバリアンの1人がいきなり倒れて、その人の分の負荷がかかった石は、あまりにも急だったためか、他の人だけでは支えきれずに、地面へと落ちた。
「こりゃー!! 遊ぶな!!」
それをどう見たら、遊んでいるように見えるのか、眼鏡のおじさんが、叫びながら、倒れたバーバリアンの元へと行き、がみがみといやみを言い始めていた。
周りの人たちも、項垂れたようにただそれを聞いている。
倒れた人は、起き上がりもできない様子だったのだけれど、それも気に食わなかったのか、眼鏡のおじさんが、その倒れた男にケリを入れた。
「ほら! 立て!!」
「……………。」
本気のケリではなかったのだけれど、シズは、完全にそのおじさんに反感を覚えていた為――。
ゴスッ………。
バーバリアン達の表情は見えなかったけど、たぶん、かなり驚いていたらしい。
シズは、その場に落ちていた木の棒を拾って、その眼鏡のおじさんの後ろへ回り込み、思い切り殴り倒したのだ。
「……ふう。これで大丈夫。」
つぶやいて、バーバリアンに向かってニッコリ笑う。
「あのね――。」
―――――。
「ハッ!! な、何が起こったんじゃ!?」
それから、小一時間程して、眼鏡の男が目を覚ました。
その時、エレベーターバーバリアン達は――。
「おお!! 何と言うことじゃ!! 完璧じゃ!!!!!!」
男――アダリーは、目の前にいるバーバリアン達の完璧さに、感動の声を上げた。
しかも……。
「うん、上手よ!! テンポあわせるの、さっき言った通りにね!」
それを指示しているのは、先程自分が追い返そうとした、小さな少女で……。
「うううう……。こ、小娘! 一体どんな魔法をつかったんじゃ!?」
悔しげにつぶやくそのアダリーに対して、シズは、ニンマリと笑った。
「それは、もちろん。企業秘密ですわ。せんせ。」
「ぬぬぬぬぬぬ―――!!!!」
持ち上げるのと同時に、バカにされたのが解ったらしいアダリーは、ただ悔しげに、唸り声を上げる事しかできなかった。
15年後――。
「ねえ、シズさん? このえれべーたって、どうやって動いてるの?」
「あら、ヒューゴさん、ご興味が?」
「もちろん。どんな動力使ってるんですか? どのくらいの人数までなら、使えるのかなあ?」
「うふふ。」
ひかえめで、上品にも見えるそのシズの笑いに、どんな秘密があるのだろうと、期待に満ちた眼差しで見つめるヒューゴの後ろで、なぜかナッシュがゴクリと生唾を飲み込んだ。
「あれ? ナッシュさん、顔色が悪いですが、大丈夫ですか?」
「あ、いや……。ヒューゴ……、あまり多くの人は乗せない方がいいと思うぞ。……おれは……。」
「? どうしてですか?」
「い、いや、な――。」
ちょっと、したくないが、やはり説明をしようかと口を開きかけたナッシュは、鋭い殺気を感じて、ハッとそちらを向いた。
だが――。
そこに立っていたのは、いつもと変わらない、優しい笑みを浮かべたシズで……。
それが、逆に、ナッシュになにか冷たいものを感じさせた。
「うふふ。残念ですが、企業秘密なんです。」
ニッコリ笑ったシズに、残念そうではあったが、まあ、そういうものなのだろうと、ヒューゴは対して気にした様子もなく、あきらめたようだった。
ただ、ナッシュだけは、先程のシズから感じられたはずの殺気に、怯えていた。
(気……、気のせい……。……だよな……? な?)
誰からも答えが得られないことが解っていながらも、この城のどこかにいるであろうエレベーターバーバリアンの姿を想像して、ザワザワと感じる空寒さに、体を震わせた。
「お待たせいたしました。本日もご利用、ありがとうございます。」
シズはやはり今日も、ビュッデヒュッケ城でにこやかに『えれべーた・がーる』をしている。
【END】
幻想水滸伝強化期間 第4作目。
…「えれべーた」という題名を見た瞬間、思い浮かんだのが、シズだったんです。
しかも、黒いの…。
シズの黒さは、ちょっと不完全ですね。
…話し方が微妙にわからなかった…。
(05.08.29)
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