「ねえ、将臣くん?」
「なんだ?」
「コーヒー飲む?」
「ああ、もらおうか。」
001.コーヒーにお砂糖を
「先輩、どうしたんですか?」
影時さんの家の縁側で、朝からボーっとすわってる私のところに、譲くんが近寄ってきた。
「うん。ちょっとね。」
そう答えて、私は笑う。
この間、譲くんは器用にも、この世界の道具と食材で、ドリアを作ってくれた。
それに、どうやら、エビフライもオムライスも作れるらしい。
きっと、材料さえ何とかなれば、彼は何でも私たちの世界の料理を作ってくれるとは思うのだけど……。
「材料がなあ……。」
「何のです?」
ボソッ言った私の声が聞こえたらしく、譲くんはにっこり笑って私に問い掛ける。
「うん、今日ね。ちょっと夢、見ちゃって。」
「夢ですか?」
「うん。将臣くんが出てきて――。」
「……兄さんが……。」
「――一緒に、コーヒー飲もうとしてたの。」
心なしか、譲くんの声が低くなった気がする。
将臣くんのことを口に出したから、心配になったのかな?
悪いことしちゃったかも……。
「コーヒーですか?」
「うん、そう。」
だから飲みたくなっちゃって……、とはさすがに言えないなあ。
あ、でも、譲くんのことだから、気付いちゃったかも。
「……ちょっと、ここではコーヒー豆は手に入りませんね。すいません。」
あ、やっぱり。
バレバレだ。
「やだなあ〜。あやまらないでよ、譲くんの所為じゃないんだから!」
ふざけて、バシッと譲くんの背中を叩いたら、譲くんはちょっと顔をしかめちゃった。
そんなに痛かったかな?
「仕方ないもんね。あっちの世界に還ったら、たくさん飲もうっと!」
言いながら、勢いよく立ち上がった私に、譲くんは、苦笑してる。
子供っぽいって思ってるんだろうなあ。
そこに、朔がやってきた。
そろそろ出かけなきゃね。
朔と話しながら歩いている、私の後ろを、譲くんはついてくる。
そういえば、譲くんは、コーヒーをブラックで飲んでたっけ?
私は、砂糖を3つ入れる。
あの、コーヒーに角砂糖をいれると、じわっと砂糖にコーヒーがしゅんで、それから崩れる様子が、何か好き。
だから、将臣くんのコーヒーには、私が砂糖を入れる。
面白いから、私を同じだけ入れてみたら、すごい顔して飲んでたっけ。
なんともいえない、複雑そうな顔。
美味しいのになあ〜。
でも、そのあと、本当に楽しそうに笑ったっけ。
なんだか、すごくまぶしい笑顔だった。
今朝の夢は、コーヒーのお湯を沸かして、ドリップした後、ちょうどカップに注いだ瞬間に目がさめた。
もうちょっとで、あの砂糖の溶ける様子が見れたのに。
きっと、私は自分の分だけじゃなく、将臣くんのコーヒーにも砂糖を入れただろうな。
でも、きっと、彼は1つしか入れさせてくれない。
3つのやつは、一回でこりちゃったらしい。
また、飲みたいな。
ふと、私の隣の朔を見た。
そういえば、朔って、コーヒーなんか飲んだことないよね?
……飲んだら、どんな感想聞かせてくれるだろ?
そう思って朔に笑いかけたら、朔はちょっと不思議そうに首をかしげたけど、にこって笑い返してくれた。
飲みたいな。
皆と飲むのも楽しいだろうけど、やっぱり、将臣くんと飲みたい。
学校でも、けっこうお昼一緒にとって、飲んでたっけ。
さすがに学校じゃ、砂糖は入れられないけど。
将臣くんとのコーヒータイムは、好きだった。
……また、できるよね。
今度会えたら、約束しよ。
それから、将臣くんは嫌がるかもしれないけど、不意をついて、3つ入れてみよ。
また、あの顔が見れるかもしれない。
「あら、何か、いいことでもあったの? 望美。」
朔が、ニコニコと聞いてきた。
よっぽど嬉しそうな顔してたのかな?
「うん。ちょっと、楽しみな事、思いついちゃって。」
「それは、よかったわね。」
そう言って、朔も嬉しそうに笑ってくれた。
将臣くん、どうしてるかな?
考えてたら、また、夢で逢えるかな?
逢えたら、いいな――。
【END】
やっぱり、主人公は、鈍くないとね(笑)。
天の青龍は、1も2も好きなんですが、多分、将臣がダントツ…。
将臣が笑った理由。単に、望美があんまりにも真剣に自分の顔を見てたから、照れちゃったのです(汗)
(05.03.01)
BACK