寝言




「や、日野。ちょっと頼まれてくれ。
 お前さんさ、志水とわりとよくしゃべってたよな?
 あいつさ、最近なんか、練習室にこもるみたいで。
 放課後ならいいんだけど、朝も昼もいるらしいんだよ。
 で、授業に遅れてくるんだけど、朝も昼もいるらしいんだよ。
 で、授業に遅れてくるんだよな。
 べつに俺はいいんだけどさ。
 他の先生方が注意しろってうるさくて。俺、説教嫌いなの。
 だから、ちょっとあいつに一言言っといてくれないかね?
 放課後も時々練習室にいるみたいだから、のぞいてやってほしいわけ。
 じゃ、頼んだからなー。」

金沢先生に頼まれた。
(うん、確かに、授業に遅れるのは良くないよね。)
香穂子は、いつも志水が使用している練習室の前に立っていた。

コンコン。

・・・・・・・・・・・・。

(あれ?)

確かに中に誰かがいる気配がするのに、返事がない。

(どうしたのかな?)

香穂子はそっとドアを開けた。

「あれ? いない?」

きょろきょろと練習室の中を見渡す。

荷物はある。

「おかしいな。」

つぶやきながら一歩中に入ると、ピアノの影に楽譜、筆記具が散らかっているのが見え、近づいていくと、志水のフワッとした、薄茶色の髪が見えた。

「いた。」

香穂子は、物音を立てないように気をつけながらそっと、側にしゃがみこんだ。

気持ちよさそうに、ぐっすりと寝ている

「かわいい。」

寝顔を見るのは、別にこれが初めてじゃない。
志水君は、始終マイペースでしょっちゅう校内のいたるところで寝ている。

(なんでかなー・・・・・・。志水君の寝顔見てると、すごく安心する。)

起こすのも気が引けて、香穂子はしばらく志水を見つめていた。
そして、はた、と気づき顔が赤くなるのがわかった。。

(寝顔見られてると、やっぱりいい気はしないかも。)

そう考えると同時に、志水が身じろぎした。

「う・・・ん、先輩・・・?」

「あ、ご、ごめん! ・・・起こしちゃった?」

あわてて立ちあがり、そう言ったものの、志水の反応はなかった。

(なんだ、寝言か・・・。)

寝言っ!!

赤かった顔がさらに赤くなる。

(何? 何〜!? わ、私の夢見てるの〜?)

香穂子はパニックにおちいった。

意味もなくわたわたと、両手を振り回してしまっている。

そうしているうちに、志水がようやく覚醒してきたようで、、ごしごしと目元をこすっている。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
 なんだ、夢、か・・・。
 先輩の夢・・・。
 ・・・・・・・・・・・・香穂子先輩・・・。
 ・・・香穂子先輩の音が音が、すごく、すごーく好きです。
 好きだな〜って思ったら、曲が――曲が浮かんだから・・・。
 だから書きたくて・・・。
 ・・・ヴァイオリンの音が・・・。」

志水の寝言に対してパニックにつぐパニックで、すでに、香穂子の思考は働いていない・・・・・・。

寝ぼけたまま、志水がふわっと微笑んだ。

香穂子は、働かない頭のまま、その笑顔に見とれていた。

ここで、ようやく、志水が香穂子に気づいた。

「わっ、せ、先輩!?
 あ、すみません、僕、眠ってましたか。すぐ出ますので。
 そ、それじゃあ失礼します!」

香穂子の様子にまったく気づかず、志水はあわてて部屋を飛び出していってしまった。

・・・・・・・・・・・・。

香穂子は、しばらくの間、その場を動けなかった。

どきどきして、胸が苦しかった。

『香穂子先輩の音が、すごく、すごーく好きです。』

志水の言葉が、何度も何度も心の中で繰り返される。

自然と顔が緩み、笑顔になる。

嬉しかった。

ちょっと、恥ずかしかったけど、本当に嬉しいと思った。

「明日、また合奏しようって誘おっと!」

香穂子は、元気よく立ち上がり、練習室からでた。

明日が、とても楽しみになった。



[END]

初コルダ。
つ・・・つたなすぎる文章です・・・。
言い訳のしようもございません。
志水君のイベントではこの『世界は音楽に満ちている』が最も好きです。
しかし、ほんとにかわいいです!
香穂子がなかなか思い通りに書けません。
まだまだ、未熟と言うことで・・・(シクシク)




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