この日、ロケ班は海辺のホテルに滞在していた。
蓮は、ふと、割り当てられた部屋の窓から下のビーチを見下ろした。
「……あれは……。」
006.シーサイド
キョーコは1人、波打ち際を歩いていた。
海など、一体何年ぶりだろうか。
寄せては返す波を、キョーコはとても幸せな気分で見ていた。
ロケは明日の早朝から。
だから、今はここで思う存分遊んでいてもかまわないのだと思うと、キョーコは童心に返ったような気がしていた。
振り返り、自分の足跡が波に消されるのを見て、フフッと笑い、わざとステップを踏むように波の音にあわせ、足跡をつけながら踊る。
「砂のお城でも作ろうかな?」
サンダルを履いた素足で、ちょうど波を感じていた。
押し寄せてくる水の冷たさが気持ちよくて、サーッと引いていく水がまた不思議な感覚を足に残した。
その感覚と、波音に満足しているキョーコの後ろから、声が聞こえた。
「それはいいね、俺も混ぜてくれないか?」
不意に聞こえてきたその声に、キョーコは驚きの表情のまま慌てて振り返った。
「つ、敦賀さん!? 一体いつからそこに!?」
「さっきからだよ。」
「―――!!!!!」
キョーコは思わず、真っ赤になったであろう自分の顔を押さえた。
「見……、聞い……。」
「かわいかったよ。」
「〜〜〜〜〜〜!!!!!!!」
声にならなかった。
恥ずかしすぎる。
聞かれたのが、言葉だけならまだいい。
見られたのが、歩いている姿だけならいい。
自分はさっき、波音に併せて歌を口ずさみ、踊っていた。
「何処で作ろうか?」
真っ赤になって固まったキョーコにはかまわず、蓮はニッコリと笑うと、キョロキョロと辺りを見回す。
「ああ、いいものがあった。」
そう言って、キョーコの腕をつかむと、蓮は誰かの忘れ物らしい子供用のプラスチックのバケツを拾い、ロケ班が明日のために用意していたらしいパラソルの下へキョーコを引き込んだ。
そして、バケツに海水を汲んでくると、ざっと砂にかけた。
「つ、敦賀さん!!」
「ん? 何かな?」
キュラリと、極上の笑顔を見せられて、キョーコはウッと言葉をなくした。
「……なんでもないです。」
キョーコは小さくため息をついた。
「敦賀さん、砂のお城なんて作ったことあるんですか?」
「いや、初めてだよ。だから、教えてくれないか?」
子供のように、無邪気な笑顔でキョーコにそう言う蓮に、キョーコはとうとう降参して苦笑した。
「わかりました。じゃあ、一緒に、作りましょう。」
「ああ、お願いするよ。」
――――――――
「敦賀さん! それじゃ、ダメですよ!!」
「どうして? こうしたら面白くないか?」
「私は、綺麗なお城が作りたいんです!!」
「面白い形のほうが、楽しいと思うけど?」
「だって、お姫様が住むようなお城って、やっぱり、こうじゃないですか!!」
「クスクス、わかりました。お姫様? あなたのおっしゃるとおりに。」
「――――!! 敦賀さん!!」
蓮とキョーコは時間を忘れて、砂遊びに熱中した。
すぐにムキになって蓮に突っかかってくるキョーコが可愛くて。
キョーコのやりたいことを、理解しているくせに、からかうように違う方へ持っていこうとする蓮が意地悪で。
「やっと、できましたね!」
「ああ。そうだね。」
漸くキョーコ好みの砂のお城ができたのは、夕日が水平線にその姿を隠し始めたころだった。
「やっぱり、お城はこんな風に、素敵じゃなくっちゃ。」
「そう? お姫様は、このお城がお気に入りかい?」
「もう! 『お姫様』は止めてください!! ……でも、そうですね。こんなお城に、一度でいいから住んでみたいです。」
「ふーん……。」
じっと、出来上がったばかりのそのお城を蓮は真剣に見つめた。
「? 敦賀さん? どうかしたんですか?」
「いや?」
「そうですか? まあ、いいですけど。」
そう言って、キョーコは、ずっと座りっぱなしで固まった体を思い切り伸ばした。
「すっごく楽しかったです。敦賀さん。ありがとうございました。」
「いや、こちらこそ。貴重な体験をさせてもらったよ。」
「……貴重って。……と、とにかく、明日から、またよろしくお願いしますね!」
「ああ、こちらこそ。」
そう言って、ニコリと微笑みあった。
そして、そろそろもどりましょうと言うキョーコの言葉に、蓮は否もなく頷いた。
前を歩くキョーコの後ろ姿を見て、そして、もう一度だけ砂のお城を振り返った。
「いつか、君に、あの城よりもっと綺麗なお城をプレゼントしようか?」
「え? 敦賀さん、何か言いました?」
「いいや、何も。」
「そーですか?」
「そうだよ。」
そしてまた、極上の笑顔を浮かべた蓮に、キョーコはその顔を夕陽以上に真っ赤に染めた。
「ん? どうかしたのかな?」
「〜〜〜!! なんでもないです!!」
キョーコは、怒ったようにそう言って、足を速めた。
その後を、苦笑しながら蓮が追いかける。
心地よい海風が2人を仰ぐ。
「明日は、スイカ割でもしようか?」
「……時間が、ありましたらね。」
「約束だよ。」
「……わかりました。」
どこか、憮然とした表情で答えるキョーコに、蓮はまた笑いを浮かべる。
明日も、暑い日になりそうだ。
だが、とても楽しい日になるだろう。
「明日が、また、楽しみだ。」
君と過ごす1日1日が、とても楽しい。
蓮は、本当に、そのことを噛み締めていた。
【END】
シーサイドといえば、海辺。海辺といえば、砂浜でしょう!
そして、夏場、砂浜といえば、スイカ割と砂のお城でしょう! (…偏見?)
…真田はお城の方はうまく作れませんでしたが…。
スイカ割も見ている分には楽しいのですが、割れた後のスイカはどうも砂だらけで…(苦笑)
ビニールシートを引いたり、いろいろやってみるんですけど、うまくいかないんですよね。
まあ、遊びがメインなんで、それはそれでいいんでしょう。
そういえば、海なんて、何年も行ってないな〜(遠い目)
(05.08.16)
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