「……最悪。」

テレビ局での収録の後、帰り支度を終えてそのままマネージャーの待つ駐車場へと向っていた俺と、偶然ばったり会ったキョーコが出会い頭に言った。

「……てめえ……。」





002.異常なまでの





キョーコはこれからドラマの収録だろうか、コイツが着ているにしては珍しいくらい上等な生地の服を着ていて、こめかみには醜い傷跡があった。

髪はいつの間に黒に戻したのか、以前に見た茶髪のときに感じた軽い印象は払拭され、『キョーコらしさ』が戻っているように思えた――。


(……何を、考えてる……!! キョーコらしさが何だってんだ!! こいつがどんな感じだろうが、俺には関係ねえ!!)


俺は、ふと頭に浮かんだことに、ガアっと腹が立って、髪をかきむしった。



「……あんた、バカ? 何やってんの?」



目の前のキョーコが、呆れたような目で俺を見ている。

その目が、さらに俺をいらだたせる。

「――オマエが、俺にそんな口きくのかよ。」

「……あんた、いい加減に目を覚ましたらどお? ……私は昔の私じゃないんだから。……あんたを罵倒する言葉ならいくらでも出てくるけど、誉める言葉なんて出そうものなら、口が曲がりそうよ。――さあ、どいて。もう行かなきゃならないんだから。あんたと遊んでる暇、私にはないのよ。」

そう言いながら、キョーコは何事もなかったかのように、撮影スタジオへと向おうとする。

その、普通の行動のはずのことが、なぜか許せなかった。



バンッ!!



俺は、次の瞬間、俺の脇を通りぬけて行こうとしたキョーコを壁に押し付けて、腕の中に閉じ込めた。



「――!! ちょっと!! 何のつもり!?」



キッと、俺を睨みつけてくるキョーコに、なぜかゾクゾクした。

こんな目、こいつに――いや、誰からも向けられたことなんかなかったからかもしれない。

コイツが、俺に復讐してやると言ってきたときも、正面きって向ってきたプロモ撮りの時も、面白いとは思ったが、コレほどまでに、ゾクゾクとした快感を覚えたことはなかった。


「へえ――。そんな目、出来たんだな、おまえ。」


「!? 何のことよ!?」


キョーコは自覚がないのだろう、睨みつけたまま、疑問を俺にぶつけてくる。

その様子すら、俺にとっては新鮮だった。



いつから、こんな表情をするようになった?



――俺と離れてからか?



ああ、俺に、捨てられたから、か?



まあ、そんなことはどうでもいい。



いい表情をするようになったと、思う。



幼馴染として過ごしてきたとき、こいつを騙して利用していたときは、ホワホワした表情ばかりを俺に向け、つまらない女だと思っていた。

だが――。

「……オマエ、いい女になってきたんじゃねえ?」

「――はあ!?」

キョーコはよほど驚いたのか、俺を睨みつけていた表情からは想像できないほどに気の抜けた、間抜けな顔をした。

「クックック……。ばーか。んなわけねえだろ?」



半分本気で、半分冗談。



俺が言った言葉に、キョーコは顔を赤らめて、怒りの感情をぶつけてきた。

キョーコの後ろに、今日は今まで引っ込んでいたらしい、どす黒い何かが、出現してきた。

……アレばっかりは、正体不明で不気味だ。

だが――。



――こんなにも、俺をいらだたせる女は、他にいない。



――こんなにも、俺をゾクゾクさせる女は、他にはいない。



「まあ、もっと、いい女になったら、俺の隣を歩かせてやってもいいぜ。」

「――! バカにしないで!! 誰が、今更あんたの隣なんか歩きたいと思うもんですか!!」

「そうか? 俺を目指して、俺を超えることがオマエの目標なんだろ? ……目標ってことは、あこがれてんのと、同じようなもんじゃねえか。」

「――違うわよ!! あんたをいずれ、私の前で跪かせることが、私の目標よ!! 摩り替えないで!!」

「大差ねえよ。」

「大違いよ!!」

「……せいぜい、俺の足元であがくがいい。すがり付いてきたら、手を貸してやってもいいぜ。オマエは、俺の『モノ』なんだから、それぐらいの慈悲はくれてやる。」

「――!! 私はあんたのモノなんかじゃないわ!! いい加減、目を覚ましたらどうなの!?」

キョーコがさらに激昂したように俺に怒鳴ってくるが、俺にはそのキョーコの様子は面白いものにしか映らない。



だって、そうだろう?



「――オマエが、俺に固執している限り、オマエは俺のもんなんだよ。そんなことも気づいてないのか?」

「――!!」

キョーコの顔がさらに赤くなった。



ようやく、気づいたらしい。



そのキョーコが面白くて、さらにクックと笑う俺に、キョーコは憎悪の瞳を向けてくる。

ここで、俺がオマエにそれを気づかせてやったとはいえ、オマエは絶対に俺その感情を捨てられない。

オマエは単純だが、そこまで簡単に気持ちを割り切れる女じゃない。

それは、俺が一番知っている。

だからこそ、余計に思い知らせてやったのだ。

そうすれば、キョーコは必死で俺を忘れようと努力するかもしれない。

いや、きっとするだろう。

だが、それをしようとすればするほど、余計に考えてしまうことになり、忘れることなど実質不可能だ。



――もっと、俺を意識すればいい。



――もっと、俺を憎んでもいい。



(俺を、もっと楽しませろよ。)



オマエなら、できる。



俺は、そう考えて、ニヤリと笑う。

キョーコは俺に言う言葉が見つからないのか、ただ、ずっと睨みつけている。



異常なまでのコイツへの執着心。



自分でもおかしいと思う。



この感情が、何なのかわからないし、知りたいとも思わない。



だが――。



「――俺を、本気で悔しがらせてみろ。」



そう言って、言葉の出ない様子のキョーコをそこに置き去りにして、おれはマネージャーの待つ駐車場へと向った。

アイツの頭の中は、今、俺でいっぱいだろう。

それでいい。

――そうでなければいけない。





「それでこそ、キョーコなんだからな。」





俺は、本当に愉快な気分で、そう、つぶやいた。





【END】




めちゃくちゃ、久しぶりのスキビです〜!! …さ…三ヶ月半ぶり…(汗)
…楽しみにしてくださっていた方、本当に申し訳ありませんm(__)m
…しかし、未だスランプ脱出ならず…。
…なぜ…(泣)

今回は、ショータロー→キョーコです。
…以前から、書きたかったんですが、中々書く事ができませんでした。
…が、ショータロー…完全、別人…。
…なんか、かっこよく、ないか…?(真田基準)
…ショータローはもっとかっこ悪いはず…(真田基準。あくまでも。)
ま、楽しかったから、よしとします(いいのか…?)

さて、次は、できたら蓮さまと絡ませてみたいなあ〜。
ショータローを。(蓮→キョーコ←ショータロー)(笑…王道すぎ…? でも、それが楽しい。)
でなくとも、蓮→キョーコか、蓮×キョーコを書けるように頑張ります!!
ではまた、気長にお待ちくださいますよう、よろしくお願いします!!




(05.11.26)



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