チケット
「親父。リサイタルのチケットない? できたら・・・ヴァイオリンのが、いいんだけど」
梁太郎は帰宅後、夕食を食べ、リビングでテレビを見ながら母親と談笑していた父に、さりげなさを装って尋ねてみた。
「ヴァイオリン?」
父親は、梁太郎が予想していたとおり、ちょっと不思議そうに聞き返した。
今までも、チケットをせびったことは何度かあったが、ヴァイオリンという楽器を限定して尋ねたことはなかったからだ。
「そう、近々手に入るってことはなさそうな・・・?」
「ヴァイオリンねえ・・・。さて、予定ではどうなってたな。」
父親は立ち上がり、かけてあった背広の上着のポケットからスケジュール帳を取り出した。
「・・・・・・。ああ、ちょうどいいタイミングだ。来週には手に入りそうだ。1枚でいいのか?」
「あ、いや、その・・・2枚。お願いしたいんだけど。」
「あら、誰を誘いたいの? 梁。」
梁太郎が父に話しかけてから、今まで黙ってテレビを見ていた母親が、興味津々と言った顔で尋ねてきた。
「友達だよ! 友達。最近、ヴァイオリン始めたヤツがいて、あんまヴァイオリンの曲とか聞いたことないみたいだからさ。」
梁太郎は自分でも苦しいかな、と思いながらもうそではないことを告げた。
「あら、そうなの? 女の子?」
母親は少し残念そうに、しかし、期待した顔でたずねてくる。
「・・・どっちでもいいだろ。じゃ、親父、頼んだからな。」
そう言って、梁太郎はまだまだいろいろ突っ込んできそうな気配の母親を無視して、二階の自分の部屋へと駆け戻った。
リサイタルのチケットを手に入れ、香穂を誘うのには実は少し抵抗があった。
中学のとき、付き合う真似事をした相手には不評だったからだ。
「・・・あのときは、気まずくなったけど、あいつは一応楽器やってるから大丈夫だろ・・・。」
ベッドの上に寝転がり、つぶやく。
ちょっと不安がないわけでもない。
だが、誘ってもみずにこんな風に考え込むのは自分らしくないと思う。
とりあえず誘ってみて、考えるのはそれからにすることにした。
香穂が喜んでくれるといい。
香穂の反応がちょっと楽しみだった。
[END・・・?]
やっぱ、偶然じゃなくあのチケットは香穂子のために父親にせびったんではないでしょうか。
そのほうがいいなー。それで、母親と姉にからかわれるのー!
書きたいです。思ったものが書けるまでこの話、続くかもしれません。
ちがうバージョンで展開するかもです。
弱気な土浦君でも許せる方はお付き合いくださいませ。