土浦 梁太郎  第1セレクション

☆出会い
〈昼休みからの別バージョン〉
「ってぇ・・・。廊下を走るなって小学生の頃、教わらなかったのか? せめて前見て走れよ。ぶつかったヤツみんなが頑丈なわけじゃないんだからな。」

〈通常〉
おい、何か落としたぜ。ほら。楽譜か。今度から、落としてもいいように名前でも書いといたらどうだ?そうしたら、次に拾った時、届けてやるよ。お前、名前は? 
俺は普通科2年、土浦梁太郎だ。お前も普通科でいいんだよな。珍しいな、普通科でヴァイオリン持ちなんて。まさか、学内コンクールに出る、とかいうオチじゃないだろうな。ああ? 本当に出るのか? 冗談のつもりだったんだが。ま、頑張れよ。参加者に選ばれるくらいだ、それなりに弾けるんだろうが。まったくの素人? マジで? じゃあなんで選ばれたんだ? …災難だったな。1人で大丈夫か? 
「助けてほしい」
なんだ、1人じゃどうしていいかわからないのか? …そうだな、お前が音楽科の連中を蹴散らすのも面白そうだな。いいぜ。ちょっと助けてやる。練習室へ行こうぜ。…締め切ってるのも体裁が悪いよな。窓、開けるぜ。少し、指慣らしをしてもいいか? その間に、ヴァイオリンの準備をしとけよ。なに、お前の練習につきあえるくらいには弾ける。安心しろ。
リリ:お前! 今のピアノ、いいぞいいぞ!

うわっ! な、なんだよ! なんだよ、これっ!?  ……妖精…? 本物か…?
リリ:我輩の名はリリ、ファータの中でもアルジェントを任ぜられとる。 お前のピアノには資格がある! コンクールに参加するのだ!
コンクール? 俺が? ふざけるなよ、勝手に決めるな。俺は出ないぞ!
リリ:お前、こわいな。こんな愛らしい我輩をつかまえて怒鳴るとは了見が狭いのだ。それに、お前が抵抗してもムダなのだ。明日には参加者になっとる。では、よいコンクールを!
おい、勝手なこと言うな! …ちくしょう。なんだよ、あれ。勝手に決めやがって…。…なんだよ、あいつ。妖精…ファータ? この目で見ても信じられねぇぞ。…そうか。お前もあのチビのせいでコンクールに…。だいたい、妖精なんて、バカバカしいにもほどがある。だが、見ちまったのは確かだな。…………。抵抗してもムダか? つまり、コンクールに出たくないって言っても…。…じゃあ、仕方ない。要は、俺に音楽科をやりこめろってことだな。出るからには、負けたくないだろう。お前は違うのか?
ま、お前は同じ普通科だし、素人なんだろ? 叩きのめしたりしないから安心しろ。…出ようぜ。
こんなことになるなら、手伝いを言い出すんじゃなかったかな。手伝いどころか、俺まで出るはめになるとは思わなかったぜ。ま、こうなっちまったからには仕方ない。お互い頑張ろうぜ。じゃあな。
「ほっといてほしい」
そりゃそうだ、確かに俺には関係ない。引き止めて悪かったな。もう楽譜、落とすなよ。じゃあ。

「ほっといてほしい」を選択した場合。後日。

よう、お前か。ちょっとはうまくなったみたいだな。ま、コンクールなんてバカバカしいが、やるからには頑張れよ。
リリ:バカバカしいなんてひどいのだ。コンクールの大事さがわからないなんて、そっちのほうがバカなのだ。あっ、戻ってきたのだ!
・・・今、何か言ったか? 空耳か・・・? お前じゃないよな、人のことバカ扱いしたのは。
リリ:(うん? こいつ、我輩の声が聞こえたのかな? ひょっとして資格が・・・。日野香穂子、こいつに楽器が弾けないか聞いてみてくれ。う〜む、我が輩の素晴らしい勘では――トロンボーンに違いないのだ!)
へんな言いがかりつけて悪かったな。・・・うん? なんだよ? トロンボーン? いや、トロンボーンは無理だな。
リリ:(おかしいな。じゃあ、オーボエか? ホルンか? ヴィオラか? さ、日野香穂子、そいつに聞いてくれ。な? な?) 
おかしなヤツだな。俺がトロンボーンをやってるよう見えるのか? オーボエもホルンもヴィオラもやらない。・・・なんだ、何が言いたい?

リリ:じゃああと1つ。ピアノ! ピアノを聞いてくれないか?
もういいか? 妙な質問はよしてくれよ。・・・どういうことだ? なぜそんな質問をする? 俺がピアノを弾こうがどうしようが、お前には関係ないだろ。
リリ:ピアノが弾けるのだな? 我輩が見えるか!?
・・・・・・・・・・・・っ! なんだ、これっ!? おもちゃか?
リリ:見えるのだな! よし、お前もコンクールに参加するのだ!
はあ? なんだ、これ? おい、日野。これ、お前のもんか?
リリ:失敬な。我輩をなんだと思っているのだ? もの扱いするな!
よくできてるな。羽根までついてやがる。
リリ:あっ、やめるのだ!
面白いもん持ってるな、日野。どういう仕組みだ? この羽、なんかすげぇリアル・・・。
リリ:離せ! 離すのだ〜!
うわあっ!? な、なんだよ、これ! 生きてんじゃねぇか!
リリ:人の羽をひっぱるなんてお前はひどいヤツなのだ! だが我輩は寛大だからお前を許してやるのだ。そのかわり、コンクールに出ろ。
はあ? 何言ってんだよ。
リリ:我輩はもう決めたのだ! お前はピアノが弾けるのだろ? で、我輩が見えた。だから参加する義務がある! じゃ、そういうことなのだ〜。
なんだよ、それ・・・。おい、ちょっと待て! 勝手なこと言うな、お断りだぞ! ・・・消えた・・・ なんなんだよ、本当に。他のヤツにあは、あいつは見えないのか? 確かに今まで見えなかったし・・・。ちっ、ここで騒げば、妙なヤツだと思われるだけか。なめたことしやがって。
…お前もこの手でやられたな。なるほど。不快な話だぜ。勝手に決めやがって。
…ま、しょうがないか。俺に音楽科の鼻をへし折ってほしいならさ。 ――しょうがないよな? お前もそう思うだろ。


「行動力がある」→「面倒見がいい親分肌」を選択した場合。
「・・・お前、コンクールに出るヤツだよな? ええと、なんて言ったか・・・。そうそう、日野。普通科から出るってけっこう有名になってるぜ。」
「報道部で〜す、号外です、どうぞ〜。
「号外? ああ、じゃあ1部・・・。」
「ありがとうございま〜す。」
「ああ、コンクールの記事か。お前のことも載ってるぞ。おい、紙のふちに気をつけろよ。指を痛めたらどうするんだ。そんなんで、大丈夫か?」
「おーい、土浦〜。部活行かないのか? サッカー部集まってたぞ。」
「ああ、後で行く。・・・引きとめて、悪かったな。応援してるぜ。ああ、まだ名乗ってなかったな。俺は土浦。土浦梁太郎。普通科2年だ。じゃ、俺は行くぜ。指を大切にな。