中医内科セミナー

日時 H22.1.24 AM11:00~PM5:00
場所 上海中医大学日本校 2F

Ⅰ.穴位学、経絡学経絡弁証 孫 樹建先生

  経絡は、経脈(上下に直行する脈)と絡脈(左右に横行する脈)の略で、主幹と分岐とに分かれ、
  内部では、臓腑に属し、外部では、体表に分布して、全身に行き渡っている。
  そして、「気・血」を運んで、全身を巡り、生命活動を司っている。
  臓象学説
   臓腑の人体の生理、病理現象の観察に基づく弁証で、各臓腑の生理機能や病理変化、
   相互関係を解き明かす理論。
    臓→人体の内臓を指し、貯蔵するという意味
    象→外部に現れる内臓の生理現象
  人体の組織構造と生理機能は、
  五臓(心・肝・脾・肺・腎)が主体。
  六腑(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)
  五官(目 - 視覚 · 耳 - 聴覚 · 鼻 - 嗅覚 · 口 - 味覚 · 皮膚 - 触覚.)
  五体(筋・脈・肉・骨・毛皮)

  ・経絡は人体の気血を運行し、上下・内外を貫き、五臓六腑・四肢百骸・五官九竅を連絡する通路である。
  ・経絡の役割は、気血の流れを促し、全身各所に行き渡らせ、身体を調和させ
   正常な生理機能を維持させること。
  機体の平衡機能
   気血の運行により、人体の機能活動に相対的平衡を保つ
   ・内外に運ぶ
   ・左右に運ぶ
   ・上下に運ぶ
   具体的には、例えば足の三里のツボ(膝下三寸の外側にあって、胃経に属します)を刺激することで
   胃腸の調子が調えられる。
  病理反応
   経絡は、病邪を上下・内外に伝導し、疾病の元初部位から身体の核部に波及させることが
   出来る。(疾患の伝搬予防)
   肝臓が悪い人→目の異常
  治未病(ちみびょう)
   予防医学? 異なる。
    「健康と疾病」の状態を決めつけるのでなく、健康レベルは、高い状態から低い状態まであり、
    それが低下すると疾病の状態に至るという連続的な見方をするもので、病気になってしまってから治療方法を
    講ずるのではなく、まだ病にならない様にすることが必要である。
   素問の四氣調神大論に
    是故聖人不治已病、治未病、不治已亂、治未亂、此之謂也。
    夫病已成而後藥之、亂已成而後治之、譬猶渇而穿井、鬪而鑄錐、不亦晩乎。
      この故に聖人は已病を治さずして未病を治す、已乱を治さずして、未乱を治すとは、此れをこれ謂うなり。
      夫れ病已に成りて後にこれを薬し、乱已に成りて後にこれを治するは、
      譬うれば猶渇して井を穿ち、闘して錐を鋳るるがごとし、亦た晩(おそ)からずや。
    この故に「道理に明るい人は、病気になってしまってから治療方法を講ずるのではなくして、
    まだ病にならないうちに予防する。
    疾病がすでに発生してしまってから治療したり、戦乱がすでに起こってしまってから平定するということであれば、
    つまり、口が渇いてやっと井戸を掘ることを思いつき、戦争になってからやっと武器を造ることを考えるのと等しく、
    それでは、あまりにも遅すぎるのではなかいか。
    治(療) treatment
    疾病 軽い病気
    病気 重傷、大病
        未疾未病   正常で、予防出来る
        已疾未病   未病で、治療出来る
        已病      治療出来ない
   「上工は未病を治し,中工は已病を治す」
   この未病の考え方によれば,病気の発症をその予兆によって知り予防するとともに,
   いったん発病した場合であっても重篤にならないよう早期・適切に処置することが肝要ある。
   疾病の他の臓器への拡散・転移および疾病の悪循環の防止が期待できるとされる。
   予防には、
    ①感情の安定
      安定した感情は、円滑な気血の流れには必要で流れが円滑になって体力は養われ、抵抗力が生まれる。
      反対に、気血の流れが乱れると、陰陽のバランスが崩れ病気の原因となる。
    ②自然との調和
      人の健康は、自然の流れの中でゆっくり身を任せる。
      春(発陳) 春陽上昇と共に、潜気発散し、天地の間に万物みな発生
      夏(藩秀) 万物が成長して繁栄華美なること。天
             地陰陽の両気が盛んに交合し、万物に花咲かせ実らせる。
      秋(容平) 万物は成熟して結実し、容(かたち)が平定することを意味する。
             地気は粛清にして、物みな色彩鮮明である。
      冬(閉蔵) 万物が戸を閉ざして、陽気を潜伏させることを意味する。
             河水は結氷し、地面は凍裂する。
    ③体力の鍛錬
      
  治療作用
   鍼灸(しんきゅう)・推拿(すいな)治療
     経絡は、経穴を受ける刺激を病変部位に伝導する。 
     推拿とは、その効果の一例として「痛みを取り除く」等があり、治療家の手から、
      すなわち「気」によって病気のもとを探し、改善する。
   中薬治療
     帰軽理論により、薬の有効成分を病変部位に輸送する。
  経脈系統
   経絡の流れを把握する。
   正経十二脈
     ・手の三陰経 すべて胸中におこり、胸から手に走向し手指で各々対応する手の三陽経と交わる
        肺経 (手の太陰肺経)
         腹部中央の中焦より始まり、下がって大腸に連絡し、胃の下口(出口)と上口(入口)をめぐり、
         横隔膜を貫き肺に入りさらに喉部をめぐり、横に出て脇の下に至り、さらに上腕内側を経て肘を通り、
         前腕を経て手第一指の先端で終わる。
         <症候>
          肺が膨満して、息切れや咳が起こり、鎖骨上窩(さこつじょうか)の中が痛む。また、視力障害が起こる。


        心包経(手の厥陰心包経)(てのけついんしんぽうけい)
          胸部中央から起こり、横隔膜を下り臍まで下行する。分枝は胸部中央から脇の下に出て、
          手の内側中央を下り、第3指にいく。
          分枝は手のひらの中央から第4指に出て、三焦経に交わる。
         <症候>
           手掌の熱感、前腕のけいれん、腋下の腫れ、側胸の膨満感、動悸などが起こり、顔面が赤変し、
           目は黄色、動悸、心部痛、手掌熱感

        心経(手の少陰心経)        
          心中より始まり、心系に関係し横隔膜を下り、小腸に連結する。
          分脈は心系より咽頭を巡り眼球の後部と大脳を通る。
          直脈は心より肺を通り前腕内側を経て、肘より手掌を経て第五指先端に至る
         <症候>
           のどや口が渇き、飲物を欲しくなる。心部の痛み、上肢内側に痛み、手掌の熱感    

     ・手の三陽経 すべて手指に起こり、手から頭に走行し頭面部で各々その同名の足三陽経と交わる
        大腸経(手の陽明大腸経)
         
第2指に起こり、手のひら側を通り、第1、第2中手骨の間を通ってヒジ(肘)の外側に至り、
         さらにのぼって肩の端に行く。鎖骨上窩で2つに分かれ、1枝は胸を下って肺・横隔膜を経て大腸に属す。
         もう1枝は鎖骨上窩から上行し、頚部を経て鼻の下まで達し、胃経と交わる
        <症候>
           主に下歯痛、頚部腫脹、咽喉痛、鼻出血、肩・上腕部の疼痛、示指痛



        三焦経(手の少陽三焦経)
         第4指から起こり、手の背麺を通って第4、第5手中骨間を上行し、腕の外側のほぼ中央を上る。
         鎖骨上窩から体内に入り、胸の中央を下って三焦に属する。
         鎖骨上窩からの分枝は頚部を経て耳の後ろから前へ行き、目の外側で胆経に交わる
        <症候>
         
主に難聴、多汗、外眼角や頬部の痛み、耳後・肩・上臂・肘外側の痛み、小指・薬指の麻痺

        小腸経(手の太陽小腸経)

         第五指尺側末端 (少沢穴) に起こり、手背・上肢尺側後縁に沿って上行し、肘を過ぎ、
         上行して肩甲をめぐり、(大椎穴・督脈) と交会し、前行して (缺盆穴・胃経) に入り、心に絡し、食道に沿い、
         隔を下り胃に至り、下行して小腸に属す。
         分支は、(缺盆穴・胃経) から頸に沿い頬に上り、目尻から耳中に入る。
         別の分支は、頬から別れて眼窩下縁を経て目の内眦に至り、(晴明穴)で足の太陽膀胱経と交わる
        <症候>
         咽痛、下顎部が腫れる、首がまわらなくなる。肩は抜けるように痛み、上腕は折れたように痛む。
         また、腰も切断されるような痛みがある。本経(穴)は液による病証を主治する。
 


     ・足の三陽経 すべて頭面部から起こり、頭から足に走行し、足趾で各々対応する足三陰経と交わる
        脾経(足の太陰脾経)
          足の第1趾から起こり、足の内側を通って腹に入り、胸を通ってノド(咽)、舌に行く。
          腹部で分かれた枝は体内に入り、胸部中央で心経と交わる。
          胃経の分かれを受けて、足の拇指の末端から起こり足の内面前側を上って、腹部に入り、
          脾に帰属し、胃をまとったうえ、さらに横隔膜を上って咽喉、舌まで行く。
          1つは胃より分かれて心臓部まで行っている
        <症候>
        主に舌の強ばり、嘔吐、腹脹、体の重だるさ、心煩、泥状便、股・膝内側部の腫痛や冷え、母趾の麻痺

        肝経(足の厥陰肝経)(あしのけついんかんけい)
          足の第1趾から起こり、足背、内くるぶしを経て陰のう部を通り、腹部へ行く。
          そこから体内に入り、胃・肝・胆うぃめぐり、ノド(咽)、鼻を通って頭部へ。
          目からの分枝は下行し口唇をめぐる。
          脇腹からの分枝は横隔膜を貫いて肺へ行き、また下行し、胃部で肺経に交わる
        <症候>        
          肝経の経絡の機能が弱ってくると、表れる症状は、肉体・精神の多岐に渡ります。
          顔が何となく薄汚れたような感じ、咽がかわく、胸苦しい、吐き気がする、下痢しやすい、
          足の爪先の第三指にかけて痛む、寒気がする、熱がある、
          女性では腰痛を訴える、夜になると尿が出にくい、鼠径部から陰部にかけて痛む。
          特に肝経は、男性・女性の性器をめぐると言うことから、性器の症状が現れる傾向があります

        腎経(足の少陰腎経)
          第五趾(小指)の下に起こり、足底心 (湧泉穴) を斜めに走り、踵の中に入り、下腿脛骨後縁に沿い
          上行して膝窩内側に至り、再び大腿内側を上行して尾骨先端の (長強穴・督脈) に交会し、
          脊を貫いて腰に至り、腎に属し、膀胱に絡す。
          分支は、脊内から分出し、会陰を経由して上行し、腹を経て胸を通り、鎖骨下の (兪府穴) に止まる。
          直行支は、腎から上り、肝と横隔膜を貫き、肺に入り、咽を循って舌本を挟む。
          別の分支は、肺中で分かれ、心に絡し、胸中に注ぎ、手の厥陰心包経と交わる。
         <症候>
          空腹でも食べたくない、顔色が漆のように黒く顔望は枯れ枝のようにやつれる。
          咳をして唾を吐くと血が混じる、喉鳴して喘、煩躁して落ち着かない。
          これは骨間の経脉の気が上逆して引き起こされたものである。
          本経(穴)は腎による病証を主治する。
              

    ・足の三陰経 すべて足趾に起こり、足から胸腹に走行し頭部に達するが、
              これらは胸部で各々同名の手の三陰経と交わ
      胃経(足の陽明胃経)
       鼻翼の側[迎香]から始まり、目頭まで上がり、傍側の【足太陽経】に交会し[睛明]、下がって鼻の外側に沿って
       [承泣]、上歯齦に入り、出て唇にまわり、下がって顎の[承漿]に会合し、後ろに行き、下顎の[大迎]から出て、
       下顎角の[頬車]に沿って、耳の前に上がり、【足少陽経】の[上関]を経て、生際に沿って、前頭部に至る。
       <症候>
        体が冷水を浴びたように悪けがして、身震いする。また、頻繁に腰を伸ばして欠伸をする、額部が黒い。
        発病時には人と火を見て騒ぎ、木器の音を聞くと恐れ、動悸がして戸や窓を閉めて独居することを欲する。
        甚だしい時は高所に登り歌い、脱衣して走りかつ腹脹腸鳴症状がある。
        これは脛部の経気が上逆して引き起こされた病である。
         本経(穴)は血による病証を主治する


     胆経(足の少陽胆経)
       目の外側に起こり、こめかみ、頚部をめぐり、鎖骨上窩から1つの分枝は体内に入り、
       横隔膜を通って肝、胆に属し、さらに下行し、股関節で合流する。
       もう1つは鎖骨上窩から脇の下、脇腹を通り股関節に行き、下肢の外側を通って足の第4趾外側に達する。
       足背からの小さい分枝は第1趾で肝経と交わる。
       <症候>
         口が苦くなったり、溜息をつきやすくなる。側胸部が痛み、寝返りが出来なくなる。
         重傷になると、顔面が潤いを失い、足の外側に熱感が走る。


    膀胱経(足の太陽膀胱経)
     目の内眦 (晴明穴) に起こり、額を上行し、頭頂の (百会穴・督脈) で交会する。
     分支は、頭頂で分かれ、両則に下行して耳上角に至る。
     直行支は、頭頂で分かれて後方を後頭骨に至り、頭蓋内に進入し脳に絡し、再び外に出て、分かれて項を下り、
     下行して (大椎穴・督脈) で交会し、脊柱を挟み再び左右に分かれ、腰 (腎兪穴) に至り、腎に絡し膀胱に属す。
     別の分支は、項で分かれ、肩甲内側を経て下行し、(附分穴) から脊柱を挟み下行して、股関節に至り、
     大腿後側を経て膝窩に至って、前の分支と会合し、下り腓腹筋中に至り、外下方に向かい足の外果後部に至り、
     足背外側に沿い第五趾外側末端 (至陰穴) に至り、足の少陰腎経と交わる。
       <症候>
          主に悪寒発熱、鼻閉、頭痛、項部の強ばり、背腰部痛、膝裏・ふくらはぎ・外踝の疼痛、小趾の麻痺


    十二経絡は
      太陰肺経→手陽明大腸経→足陽明胃経→足太陰脾経→手少陰心経→手太陽小腸経→足太陽膀胱経
       →足少陰腎経→手厥陰心包経→手少陽三焦経→足少陽胆経→足厥陰肝経(→手太陰肺経→)
       の順序で循環している。


             陰経(内側、臓)      陽経(外側、腑)

         前   手の太陰肺経       手の陽明大腸経
     手経 中   手の厥陰心包経     手の少陽三焦経
          後   手の少陰心経       手の太陽小腸経


          前   足の太陰脾経       足の陽明胃経
     足経 中   足の厥陰肝経       足の少陽胆経
         後   足の少陰腎経       足の太陽膀胱経

  奇経八脈
   陰維脈、陽維脈、陰喬脈、陽喬脈、衝脈、任脈、督脈、帯脈の八脈。
    陽維脈は人体の表を維持し、陰維脈は人体の裏を維持しているから<天地>に喩える。
    陽喬脈は人体の左右の陽側を機能させ、
    陰喬脈は左右の陰側を機能させているから<東西>に喩えられる。
    督脈は体の後で陽を総督し、任脈と衝脈は体の前で共に陰を統括しているから<南北>に喩える。
    帯脈は諸脈を横に束ねているから<六合>に喩えて表現する。
   機能
    ・十二正経の連絡の不足を補充する。
    ・十二正経の気血を調整
    ・十二正経を統括
    ・奇病の治療作用を有する

 経絡弁証の分類
  1)人体の四肢の病変の経絡弁証
  2)頭部、胸部、腹部の病変の経絡弁証
  3)経絡の異常病症の弁証
  膝痛の経絡弁証
    ・膝の前部痛 陽明胃経の異常
    ・外側痛 少陽胆経の異常
    ・内側痛 太陰脾経の異常
    ・後部痛 太陽膀胱経の異常
  頭痛の経絡弁証
    ・陽明頭痛  全額痛、眉骨痛
    ・太陽頭痛  太陽穴周囲痛
    ・厥陰頭痛  頭頂部痛
    ・少陰頭痛  後頭部痛


Ⅱ.喘息の弁証論治  黄 懐龍先生