中医内科セミナー

日時 H22.1.24 AM11:00~PM5:00
場所 上海中医大学日本校 2F

Ⅰ.穴位学、経絡学経絡弁証 孫 樹建先生  
Ⅱ.喘息の弁証論治  黄 懐龍先生
 1.概論
   気管支喘息は、発作性の痰鳴(たんめい)、喘息(ぜんそく)の疾患で、
   中医学では、「哮喘と言われる。
   
哮喘(こうぜん) 証と証が合併したもの
    「哮」=呼吸が気急し、痰鳴声(ゼーゼー・ヒューヒュー)があるもの。
        咳の発作時には哮と喘が一緒に現れるので哮喘と言われる。
    ・気道狭窄 狭くなっている
    ・粘膜    「痰」が詰まる
    ・外因性   アレルギー物質(花粉、ハウスダスト)・アトピー
    ・内因性   感染、飲食失調により、内臓が過敏になってくる。
    喘息発作期は、発作の誘因、症状、痰の性状、痰症の程度により、寒哮型と熱哮型に分類される。

2.病因病機
  《素問》に「肺の病は、喘咳気逆す」、「百病はみな気より生ず」とある。
  肺の主な機能は気体の交換であり、呼吸を司り清を吸い濁をはき出しているので、呼吸系統の疾患で咳や
  気喘(呼吸困難)が現れるのは、肺の粛降作用の失調、気機の不利によるものである。
  宿痰が肺に潜伏し、それに、外感、飲食、情志、過労なのど誘因が触発され、痰が気道を塞ぎ、
  肺気が情逆して痰鳴、喘息の発作がおこる。
   伏痰か?
   風熱 肺の「気」を主る。
   風寒  

 病の根源は、虚症が関与している。
  肺虚
   呼吸器や鼻、皮膚などの異常の結果、かぜをひきやすくなったり、
   息切れ、汗が出やすいなどの「肺の働き」が弱った状態。
   肺気不宣(はいきふせん)
    肺気の働きが充分に行われていない(不宣)
    肺は、下記の働きがある。
    ①気を主る
     肺が自然界の「清気」を吸入し、体内の「濁気」を排出すること。
     宗気の生成
    ②宣発(せんぱつ
     宣発は外、上に向かって発散すること。
     肺の宣発作用に異常を生じると、精微の散布・濁気の排出・衛気の温煦・防御機能や汗の排出
     などに異常を呈する。
    ③粛降(しゅくこう)
     内、下に下降させることで、肺と気道を清潔にするとは、肺や気道の異物が取り除かれることをいう。
     従って、肺の粛降作用に異常を生じると、清気の吸入、清気・水穀の精微・津液などのかゆ下輸、
     気道の清潔状態などに異常を呈する。また、大腸の蠕動運動を促す。
    ④通(疏通)調(調節)水道
     水道とは水液代謝の通路を意味し、通調とは疏通・調節を意味している。
   痰液内停  
   粛降失司(しゅくこうしつし) 
      →肺の宣降の機能失調
   肺気上下
    肺気が粛降せず、上逆(上に突き上げる)すること
      咳嗽・呼吸促迫・呼吸が荒い・喘息・多痰・胸の脹満(張って苦しい)など
   肺衛不固(はいえいふこ) ←→  益肺固表
     肺の気が弱まり、衛気(えき:防御作用)が不足する状態。
     そうすると、津液が漏れる。
     鼻水、悪風(おふう)、自汗(じかん)の症状があらわれる。
     腎とも関連。
   慢性の咳喘により肺気が虚す→津液の輸布失調  >痰→肺に停伏
   肺気虚弱
     心臓に影響する。→肺性心臓病(右心室が大きくなったり、はたらきが悪くなる)
  脾虚
   胃腸が弱く疲れやすい体質で、脾の機能が落ちた状態のこと。
   日本は湿度も高く、食生活でも冷たいものを摂り過ぎる傾向にあり、
    食欲不振、下痢などの症状が現れやすい。
   「脾土は万物の母であり、水穀精微の運化を主り気血生化の源であり、後天の本である。」
    そのため、脾土が虚衰して運化機能が低下すると、五臓六腑の濡養不足を来たので
     いろいろの病証をでる。
   脾不健運
    脾は水穀精微を運化する主な内臓で、脾気が健運すれば、血液に化生する原料を充分に供給
    できるが、もし、脾が健運を失えば、血液に化生する原料は乏しくなり、血液不足となる。
   痰湿内生
    脾虚の場合、痰湿(体内で悪さをする水分)が起こり、消化、水液代謝がうまくいかず、溜まって、
    ますます脾の働きが衰え、悪循環に陥る。痰湿をうまく代謝させることが必要。
    内生の五邪
     内風(ないふう) 肝の失調 や、肝や腎の血や津液の不足 により、肝の陰陽のバランスが崩れて発症する。
     内寒(ないかん) 心・脾・腎の陽気 が不足し温煦作用が低下 することにより発症する。
                 (おんくさよう:体を温めたり、温めることにより代謝を促進するはたらき。)
     内湿(ないしつ) 冷たいもの・なまもの・甘いもの・味の濃いもの・酒・水分などの摂りすぎなどで、
                脾のはたらきが低下することにより発症する。
     内燥(ないそう) 大量の発汗、嘔吐、下痢、出血、あるいは慢性疾患、加齢などにより、
                津液が消耗されるため発症する。
     内火(ないか)・内熱(ないねつ)

                臓腑の陰陽のバランスの崩れや、七情、気血の滞り、病邪の滞りにより発症する。

     脾気虚弱の体質の者が甘い物や濃厚な味の物を過食する→脾の運化機能失調>
     風寒の邪を感受する度に発作が誘発される。あるいは症状が悪化する。

  腎虚
   下半身に位置する臓器の働きが低下した状態で、腎の精気が不足した状態。
   精気虚弱
   腎不納気(じんふのうき)   
     肺気虚証に腎気虚証(腎陽虚証の軽度なもの)が合わさった状態で、
     老人の肺気腫、小児や老人の喘息などによくみられます。肺腎気虚の本質は腎気虚にある。
     呼吸困難、呼多吸少、動くと息切れ
   気不化水・気不行水
     気虚により推動作用が減弱すれば、気化は無力により進行できない。
     気機鬱滞で不暢ならば気化は妨げられる。これらのは、津液の輸布・排泄障害を引き起こし、
     痰・飲・水・湿などの病理産物を形成する。これは病理において“気不行水”又は“気不化水”と呼ばれる。
   腎陽虚弱
    「腎陽」は「命門の火」ともいわれ人体の熱の源泉であり生理機能の原動力が、虚弱となり、
    温養されないと体内の各部の組織や器官が滋養されずそのために生殖機能が低下する。
   腎気虚弱
    「腎」が機能活動するために必要な「腎中の精気」が虚弱になっている状態で、
     そのために成長、発育、生殖機能が低下する。

3.鑑別  

喘鳴音 呼吸困難 緩解期の症状 特徴
あり あり なし    誘因あり、発作と緩解も突発的。収まると平常
   ゼーゼー、ヒューヒューという咽喉の症状がある
なし あり あり    他の病気の伴う症状。進行すると「ガン・肺機能低下」
   急・慢性病の経過中に併発する呼吸促迫の症状

 重病度判断
  1.中等症(ステロイド投与)
  2.重症
    ①起きて呼吸が出来ない
    ②チアノーゼ
    ③会話困難
    ④苦しくて歩けない
    ⑤プレゾニン2.5~5.0/day
 気管支喘息
    ①呼吸性  息が苦しくなり、ぜいぜいひゅう ひゅう鳴る発作性の呼吸困難
    ②乾性   誘発性季節の変わり目
 心性喘息
    湿性    心臓の下の方 運動の後、心臓が弱って夜も発作が起きる。

4.弁証論治
  本病は邪実正虚で、発作期は邪実が主。(寒咳と熱咳に分ける)
               緩解期は正虚が主。(陰陽の偏虚と臓腑に分ける)
  胃腸が弱い・肺腎陽気不足

(一)発作期
1.寒哮型(寒冷アレルギー症に多い)
  主証:顔色が暗く渋くて青い、寒さを嫌う、寒風にあたるや冷水を飲むなど体が冷えると、
      すぐに鼻水が出て、喘鳴が始まる。冬は発作が多く、口が渇かない。
       痰は、白色、希薄、あるいは、粘稠、量が多い。泡沫を多く含む。舌苔は、白い。
       脈は、弦緊または、浮緊。
 
  治則:宣肺散寒(せんぱいさんかん)・・豁痰平喘
      体表にある風寒の邪を追い出し、肺の機能を元に戻し、熱を取り去るという治療。
  方薬:射干麻黄湯加減(やかんまおうとう)
      (射干・麻黄・細辛・半夏・五味子・紫苑・款冬花・生姜・款冬花・大棗 )    
      小青竜湯(麻黄・細辛・半夏・五味子・桂枝・甘草・芍薬・乾姜)
         芍薬・甘草は、鎮痛作用をはじめ、抗炎症作用、横紋筋・平滑筋の緊張をゆるめて痛みをやわらげる。
  加減:
   ・喘息の強いものは、蘇子(そし:しそで止咳平喘薬)亭歴子(ていれきし:肺に滞った水分を除き、
     胸水や肺水腫・多量の痰などの状態を改善)を加える。
   ・悪寒の あるものは、桂枝(けいし)を加える
     桂枝:温熱性の薬物で血行を促進する。また通陽利水(化気行水)効能があるので、水腫・痰飲に効果
   ・痰の多いものは、白芥子(はくがいし)を加える。
     白芥子:温化寒痰の生薬
      慢性気管支炎・肺気腫・滲出性肋膜炎などで、咳嗽・多量のうすい痰・胸脇部が脹って苦しい
      疼痛などの寒痰の症状があるときに用いる。また、辛酸温通の効能があり・痰を除き腫脹を消退する。
   ・咳の強いものは、五味子(ごみし)、杏仁(きょうにん)、陳皮(ちんぴ)を加える。
     五味子:滋養,強壮,虚弱、また鎮咳、止瀉薬として気管支炎、ゼンソクなど痰の多い時に使うが、 
          熱証の咳嗽・呼吸困難には禁忌。
     杏仁 :あんずの種子で、止咳平喘で潤肺(肺躁による乾咳・躁痰を潤して去痰)に使用
     陳皮 :みかんの皮
2.熱哮型(感染症に多い)
   主証:顔色が赤い、胸中ほてって熱くなりいらだつ。喘鳴、息が荒い。
       胸部のイライラ感、発熱口渇、顔色や唇が赤い。空咳や黄色粘稠痰、口渇、舌質は赤い。
       舌苔は、黄。脈は滑数。
   治則:清熱化痰(熱を冷まし、痰を除く) 宣肺平喘(せんぱいへいぜん)
   方薬:定喘湯(ていぜんとう)
       麻黄、杏仁、半夏、紫蘇子、黄?、桑白皮、白果(銀杏)、款冬花、甘草
   加減:
      ・気管支の炎症の強い場合は、魚銀花、金銀花を加える。
       魚腥草(ぎょせい草:ドクダミ)肺の熱を冷まし、解毒する作用や利水作用
       金銀花(きんぎんか)清熱解毒:解熱、健胃、利尿作用
      ・熱が高い場合は、石膏、知母を加える。
       石膏(白虎)
       知母(ちも) ユリ科ハナスゲの根茎
      ・喘息が酷い場合は、地竜、芍薬を加える。
       地竜(じりゅう)気管支拡張作用・高熱・煩躁・痙攣があるときに、清熱鎮痙の効能
       芍薬(しゃくやく)
      ・痰少粘って出にくい場合は、桔梗、麦門湯を加える。
       桔梗(ききよう)去痰、鎮咳、排膿
       麦門湯(ばくもんとう)滋養強壮、消炎、解熱、鎮咳去痰

(二)緩解期
  1.肺虚型
   主証:顔色が悪く、青白い。声低・懶言(らんげん:声に力が無い)、軽い運動ですぐ息切れする。
       寒がり、自汗、風邪引きやすい。疲れると、咳痰などが出る。
       舌質は、淡
       脈は、  細虚
   治則:補肺固表
   方薬:玉屏風散(ぎょくへいふうさん)
       黄耆、防風、白術、(桂枝、甘草)
       玉=素晴らしい、屏(風)=風を防ぐ。つまり玉屏風散は、体に屏風を立てて風邪や花粉症の
        邪気(表熱、表寒など)から体を守る。
   加減:
      ・咳痰がある時は、陳皮、半夏を加える
      ・痰が希薄量多い時は、生姜、半夏を加える
      ・喘鳴があれば、麻黄、地竜を加える
      ・便秘では、瓜楼仁、麻子仁を加える
       瓜楼仁(かろにん)カラスウリの種子:消炎解熱、鎮咳、去痰、鎮痛
       麻子仁(ましにん)クワ科アサの種子;虚弱者の各臓腑の生理的水分不足を緩慢に調える。
                               潤腸作用 瀉下作用
      ・痰が黄色、舌質が赤では、黄?、前胡を加える
       黄芩(おうごん)コガネバナの根:利尿作用や清熱乾湿作用、瀉火解毒作用が優れており、
                           循環器(肺や気管支)、消化器官(胃や腸)や脾臓、肝臓に停滞する
                           炎症を取り除き弱った胃腸機能や肝機能を正常にする。
       前胡(ぜんこ)ノダケの根:解熱、鎮痛、鎮咳、粘調な去痰薬
 2.脾気虚
    主証:痰の多い咳、体がだるい、食欲不振、少し食べるとお腹が張る。軟便、脂っこいものを食べると下痢。
        食物アレルゲンの摂取で発作を起こす。
        舌体は、胖大(が、口の幅ほど大きく、ぼってりとしていること)歯痕:舌辺に歯痕が波状に残っている。
        舌質:淡 舌苔:白滑 脈:濡
    治則:健脾化痰(けんぴかたん)
        胃腸に元気をつけて痰を除く
    方薬:六君子湯(りっくんしとう)
        四君子湯:人参、朮(特に白朮)、茯苓、甘草
              健胃、鎮痛、補血、利尿、免疫強化作用などがあり、温性で穏やかに働く。
        二陳湯  :半夏、陳皮
              胃内の湿気を調節したり、血や水の巡りをよくする。
    加減:
       ・喘息症状の強い時は、麻黄、地竜を加える
       ・嘔吐清涎舌苔白膩では、生姜、厚朴を加える
       ・痰が黄色、舌質が赤い時は、桑白皮、黄?を加える
       ・お腹が脹満感では、枳実、厚朴を加える
       枳実(きじつ):ダイダイの実
        ①自律神経の緊張を緩和し、咳からの痰を散らす。
        ②飲食停滞による腹部膨満感、慢性消化不良に用い、胃腸機能の回復をはかり、消化を促進する。
        ③肝臓・胆のう疾患による胸腹部の緊張を緩和。
 3.腎気虚
    主証:顔色がうす黒い灰色、呼吸が長く、吸気が短い。動くと動悸や息切れが激しい。   
        泡沫の多い痰、腰や下肢が痛み強ばる。小児喘息や老人の喘息に多い。
        陽虚に偏るものは、耳鳴り、四肢が冷え、寒がり、顔色が悪い、小便は、薄く量が多い。
                    舌質:淡  脈:沈細無力
        陰虚に偏るものは、手足にほてりがあり、寝汗をかく、便秘、小便が黄色。
                    舌質:赤い苔が少ない  脈:細数
    治則:温腎納気(陽虚);滋陰補腎(陰虚)         
         温腎納気:腎を温め、気を納める本来の腎の作用や気化作用を正常に行われるように治療
         滋陰補腎:腎陰を補充したうえで腎陽を鼓舞する
    
方薬:
       ・陽虚 腎気丸
             地黄、山茱萸、牡丹皮、茯苓、沢瀉、炮附子、桂枝、山薬、杜仲、破故紙(はごし)
       ・陰虚 七味都気丸(しちみときがん).
             熟地黄、山茱萸(さんしゅゆ:グミ)、山薬、牡丹皮、沢瀉、茯苓、五味子
    加減:
       ・喘息の強いものは、麻黄、地竜
       ・腎陽虚は、蛤蚧(ごうかい)
       ・腎陰虚は、麦門冬、枸杞子(くこし)
       ・動くと息切れは、人参、冬虫夏草(とうちゅうかそう)
       
 四、エキス剤の用い方