共栄会:夏期研修会

日時  :平成23年8月20日(土) AM9:30~11;30
議題  :肥満と漢方薬 ~防風通聖散のメカニズム~
講師  :近畿東洋医学研究所 森山健三氏

講演内容
1.誤った摂食パターン
  夜食症候群(Night Eating Syndrome)と言われるもので、朝は、食欲不振・不眠を伴い、
  夜だけで、一日摂取量の半分以上摂ってしまう病態。
  自律神経の働きには、日内リズムがあり、
  一般的に、昼は、交感神経。夜は、副交感神経が活発になる。
  夜に多く食べると過剰エネルギーが蓄積し易くなり、肥満に結びつきやすい。
   (夜食は就寝3時間前まで)
  また、摂取カロリーが同じなら、食事回数が少ない方が肥満になり易い。
   (一日2~5回に食事を分けて実験したところ、
    2回に分けて食事が肥満になり易く、5回に分けて食べると太らなかった。
2.1日の摂取カロリーを決める
  ①身長から標準体重を計算
    標準体重=身長(m)×身長(m)×22
     身長170cmの人の場合、
       63.58kg=1.7×1.7×2.2
    <参考>
      BMIBody Mass Index)指数
       =体重(kg)÷身長(m)÷身長(m) 
       標準値:20~23
  ②適正エネルギー
    標準体重の数値から運動強度と必要エネルギーの表から求める     
運動強度 必要エネルギー 解 説
 軽 い  25Kcal 主婦・事務職など室内中心の生活
普 通 30Kcal 特に、重労働してない
重 い 40kKcal 重労働
     エネルギー値:63.58kg×30=1907.4Kcal
  よくある事だが、妊娠すると動きも遅くなり、1日の摂取カロリーを決めてないと肥満になり易くなる。
  注意が必要だ。カロリーを決めて、3~5に分けて食べるのが良い。
  実際、満腹感を得られない時は、カロリーの少ないこんにゃくマンナン等がお勧めである。

3.運動療法
  ①基礎代謝:
   体温を維持したり、心臓を動かしたり、生命を維持するために消費されるエネルギー
   一般的に、骨格筋、肝臓、脳が半分以上を占める。
   ので、筋肉の量を増やすことで、筋肉活動より、燃焼して消費される。
    基礎代謝量=基礎代謝基準値×体重 
男性 女性(妊婦、授乳婦を除く)
年齢 基礎代謝
基準値
(kcal/kg/日)
基準体重
(kg)
基準体重での
基礎代謝量
(kcal/日)
基礎代謝
基準値
(kcal/kg/日)
基準体重
(kg)
基準体重での
基礎代謝量
(kcal/日)
1~2 61.0 11.7 710 59.7 11.0 660
3~5 54.8 16.2 890 52.2 16.2 850
6~7 44.3 22.0 980 41.9 21.6 920
8~9 40.8 27.5 1,120 38.3 27.2 1,040
10~11 37.4 35.5 1,330 34.8 34.5 1,200
12~14 31.0 48.0 1,490 29.6 46.0 1,360
15~17 27.0 58.4 1,580 25.3 50.6 1,280
18~29 24.0 63.0 1,510 22.1 50.6 1,120
30~49 22.3 68.5 1,530 21.7 53.0 1,150
50~69 21.5 65.0 1,400 20.7 53.6 1,110
70以上 21.5 59.7 1,280 20.7 49.0 1,010
     (厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2010年版))
  ②有酸素運動
   十分に長い時間をかけて呼吸・循環器系機能を刺激し、身体内部に有益な効果を生み出すことのできる
   運動で体を動かしている時、呼吸して行う運動。
   <ウオーキング、ジョキング>
  ③行動療法
   日常生活に肥満と関わっている行動を調べ、それを改善していく治療方法。
   食べ過ぎ、間食、早食い、濃い味付け、やけ食い、つい食べてしまう等々を日記につけて、
   どんな「くせ」が肥満と結びついているのかを明らかにし、認知の「ずれ」を修復し、肥満を改善していく。
   他人から言われ、一切止めてしまう。→拒絶症(言い方が問題)

 3.抗肥満薬
  ①脂肪吸収抑制剤
    腸の中で摂取した脂肪の吸収を押さえる治療薬
     (低脂肪の食事を摂取したのと同じ効果)
    ・オーリスタット
       腸内のリパーゼに働き、脂肪の吸収を阻害する。
       副作用として、脂溶性のビタミン(A,D,E,K、βカロチン等)の吸収も阻害してしまう。
       Xenical®(ゼニカル)、ALL(アリ)
    ・アルカポース<α-グルコシダーゼ阻害剤>
       二糖類をブドウ糖に分解するα-グルコシダーゼという酵素の働きを抑制して,
       食後のブドウ糖の産生を減らしたり,腸からの糖の吸収を遅らせる。
       グルコバイ(バイエル)
    ・ボグリボース<α-グルコシダーゼ阻害剤>
       ベイスン(武田薬品)
   ②食欲抑制剤
   食欲の伝達に関わる神経系に働きかけて、食欲を押さえる。
    ・マジンドール(ノバルティスファーマ)
      35歳以上の患者に適用
    ・シブトラミン(アボット)
      外国では上市しているが日本はない
    ・フェンテルミン(フェンテン?)
      使えなくなった→麻黄を使い出した FDAは肥満に使うのは?
    ・ベンズフェタミン
    ・ジエチルプロピオン
    ・フェンジメトラミン

 4.漢方製剤
  ①食欲を抑えて食事療法をやりやすくする。
   (脂肪太り:色白でドッシリタイプ)
   大柴胡湯、防風通聖散
  ②空腹の訴えを少なくする方剤
   地黄含有成分 鉄分
   温清湯、四物湯、八味丸地黄丸
  ③脂肪細胞の増加に伴う水分の貯留を取り除く方剤
   (水太り:色白でぽっちゃりタイプ)
   五苓散(ごれいさん)、防已黄耆湯(ぼうぎおうぎとう)
  ④脂肪の代謝を盛んにして、皮下や臓器の脂肪沈着を少なくする
    大柴胡湯(だいさいこと)
  ⑤脂質、脂肪の消化系からの吸収を悪くする
    大柴胡湯、防風通聖散
  ⑥便秘を解消<大黄含有製剤>
    桃核承気湯(とうかくじょうきとう)
    血お血剤:桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、大柴胡湯
  ⑦肥満の原因、誘因を解消させる方剤
    加味逍遥散(かみしょうようさん) 加味帰脾湯(かみきひとう)
  ⑧肥満の結果生じた自他覚的異常の軽減に用いる方剤
    (筋肉太り:赤黒でがっちりタイプ)
    桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)、桃核承気湯、当帰芍薬散

 5.防風通聖散
  ①効能・効果
   体力充実して、腹部に皮下脂肪が多く、便秘がちなものの次の症状:
   高血圧や、肥満に伴う動機・肩こり・のぼせ・むくみ・便秘、蓄膿症、湿疹、皮膚炎、ふきでもの、肥満症
  ②成分・分量
   滑石5.0、石膏3.0、黄ごん2.5、桔梗2.5、甘草2.0、荊芥2.0、山梔子2.0、川きゅう1.2、芍薬1.2、当帰1.2、
   薄荷1.2、防風1.2、芒硝1.2、麻黄1.2、連翹1.2、生姜1.0、大黄1.0
   
  ③漢方的メカニズム
   麻黄はエフェドリンを多く含み、交感神経終末からノルアドレナリン放出を増強し、白色脂肪細胞と
   褐色脂肪細胞のアドレナリン受容体を活性化する。
  

















  連翹、荊芥、甘草にはカフェインより2.5倍、強力なホスフォジエステラーゼ(cAMP)阻害作用がある。
  
また、ノルアドレナリンの効果を持続させる働きがある。
  

 6.消化管からの吸収に関する生薬
  ①大黄(だいおう)
   ・薬効成分はセンノサイド(Sennoside)Aは、内服すると、胃、小腸では吸収されずに大腸まで行き、
   腸内細菌により、加水分解を受けて、sennin Aになり、さらに、レインアンスロン(rheinanthrone)に
   開裂される。











    大腸壁を刺激して、ぜんどう(蠕動)運動を活発にして瀉下効果があらわれる。
    このレインアンスロン(rheinanthrone)が腸管から吸収されて、アウエルバッハ神経叢
     (筋層間神経叢:消化管の縦走筋層と輪走筋層との間に位置し、筋層に運動刺激を、
       また粘膜に分泌刺激を及ぼし、ぜん動を調節する)
    ・腸内細菌が、このように成分を分解するのに、8~12時間かかる。
     排便したい時間を逆算する。
  ②芒硝(ぼうしょう)
    塩類瀉下薬。緩下作用。血液凝固抑制作用。成分は、乾燥硫酸ナトリウム
    大黄と共に配合されることが多い。
    ・塩類下剤の作用
      Mg 硫酸イオン、クエン酸イオンなどは、腸壁では、吸収されない。
      一方、腸粘膜は、半透明のため水分は、自由に通過できる。
      よって、内服したこれらの塩類が、腸管腔内へ移行するため、腸内の水分が顕著に増加して
      腸の蠕動運動が促進されレ排便がおこる。
  ③その他の下剤
   ・膨張性下剤
    水分を吸収させて便を軟らかくし、腸の内容物を膨張させることにより、腸を刺激して、排便を促す。
    便が詰まっている腹圧が上がってる。
    →寒天
   ・湿潤性性下剤
    硬便に水分を浸透させて軟化、潤させて排便を促す。
    →ベンコール

 7.寒証の便秘
   加齢等により下腹の陽気が衰え、温めることが出来なくなると、物質代謝がうまくいかず、便が出にくくなる。
   ・マルチトース
    麦芽糖が腸内細菌によって、分解(発酵)され、生じたガスにより、便通をもよおす。
    老人の場合、波がある→三黄丸(のぼせがある)←→八味丸

 8.肥満の種類
   上半身肥満 ーー 中枢性肥満ーー男性型で内臓脂肪型(リンゴ型)
     小腸や大腸のまわりや腸間膜などの腹腔内に脂肪が蓄積
   下半身肥満 ーー 末梢性肥満ーー女性型で皮下脂肪型(洋なし型)
     腹部の皮下に脂肪が蓄積した状態のもの。
   詳しくは、メタボリックシンドローム のページへ
     
 9.異所性脂肪
   心臓など脳以外の全身の臓器や筋肉に蓄積、動脈硬化や脂肪肝などの生活習慣病を引き起こす。
   食べ物を食べると脂肪は、皮下にまず溜まり、皮下の脂肪が溢れると大腸や小腸のまわり内臓に溜まる。
   そして、更に食べ過ぎると肝臓や筋肉、血管に脂肪が蓄積する。
   予防は、運動すること。運動すると直ぐに減る。
 
 10.日常での肥満解消法
   ①なるべく階段を使う。
   ②運動・通学で、少しでも歩く時間を作る。
   ③近いところに移動する時、歩く。
   ④家で、ごろごろしている時間を減らす。
 
 12.健康的な身体とは
   代謝酵素が最大に働いていることが絶対条件。
   そのため、十分なタンパク質、指示役のビタミン、ミネラル、細胞壁や体内調整役の材料となる
   各種脂肪酸、食物酵素など、日々しっかり食べることと共に、摂取した栄養素が確実に消化・分解・
   吸収されるよう心がける。