変わるものと変わらないもの」にリンクした話になってます(汗)



「ねえ、ビッキーって、どこから来たの?」

「え……?」

大きなお船の中で、いつものように、鏡の前に立っていたわたしは、困っていたわたしに手を差し伸べてくれた、金色の髪の軍主さんに問われた内容に、首をかしげた。





009.涙





あのとき、そんな簡単な問いに、わたしは、答えることができなかった。



なぜ?



すっと、頭の中を、どこかの場所が浮かんで流れていった。



わたしは、どこから来たの?



グルグルと悩み始めたわたしに、軍主さんは、困ったような表情を浮かべて、「ごめん。」って言った。

なにか、わたしに悪いことをしたみたいに、思ったみたいだった。



違うの。



わたし、別に、答えるのがいやだったわけじゃなかったの。



……でも、声はでなかった。





本当に、わたしは、どこから来たんだろう?

前は、何をしてたの?

考えると、何かがふわっと目の前に浮かびかけて、そしてそのまま消えていく。

どうして?

まるで、思い出したくないことでもあったみたい……?



思い出したくないこと?



繰り返したとき、胸がツキンと痛んだ気がした。



……どうして?





夜中に目が覚めた。

夢の中、とても大きな人――とても、優しそうな人が、悲しそうな、苦しそうな顔でわたしを見ていた。



ううん、彼は本当に――。

悲しかったの。

そして、苦しかったの。

でも、彼は、泣けなかったの。





男だから?


大人だから?


それとも――?





見たことの無い人だとは、思わなかった。

あきらかに、見たことがある人で、わたしの名前を呼んでいた。

とても懐かしい人。

かわいそうだと思った。

……わたしより、明らかに年上に見えるのに。

それでも、慰めてあげたくなった。

柔らかな茶色の髪を後ろで1つに縛って、大きな刀を背中に背負った男の人。

彼の後ろには、白い、大きな何かがいる。

それが当たり前の人。



『ビッキー。―――。』



彼が言ったはずの、わたしの名前に続く言葉が、思い出せない。

……違う。

「思い、出したくないんだ。」

声に出して、つぶやいて、息を吐く。

その息と共に、胸につかえていた何かが、あふれた。



「あ……。」



わたし、泣いてる。



……どうして?



問い掛ける答えを、知っているはずなのに、わたしは思いつかない。

何も、思い出したくない。

だから、忘れたの。





「ごめん、フッチくん。」





すっと、出てこなかったはずの、さっきの男の人の名前が出てきた。

頭の中の『フッチくん』は、その声に反応したかのように、優しく微笑んでくれた。

自分が、どれほど辛い思いをしていても、困っていても、目の前の誰かが自分を頼れば、どんなことにも手を差し伸べてくれる人。



――優しい子。



あの『フッチくん』の前で、わたしは多分泣いていた。

あの後、きっと、彼はわたしの頭を撫ぜて、笑ってくれた。




「わたしより、つらかったのに。」




――どうして?




「わたしより、泣きたかったはずなのに。」




――なぜ?




原因は、思い出せない。



思い出したくない。



それでも――。





「逃げてごめん。」





彼に、全てを押し付けて、わたしは逃げ出したような気がする。



涙が、後から後からあふれて止まらない。



フッチくんは、『誰か』を否定したくないと言った。

そして、わたしはそれに頷いた。その『誰か』を否定することは、自分たちの中にいる、本当のその『誰か』をけしてしまうことになる気がしたから――。



そして、彼は、『誰か』を悪者にはしたくないのだと言った。

――私も、その通りだと思った。その『誰か』が、悪い人と思われるのが嫌だったから。



その『誰か』が起こした戦いを、自分たち――彼と、そしてわたし――で、終わらせたいと言ったのだ。その『誰か』をよく知っている、わたしたちの手で……。

――わたしも、それに頷いたのに……。



わたしは、全てを彼に押し付けて、ただ、泣いているだけだった。



「ごめん。フッチくん。」



その上、さらに逃げ出して……。



その『誰か』を知っている人がいる世界から、逃げ出した。



わたしは、ただ、逃げるだけ。



泣いているだけ。



口で言うだけ。



思うだけで――。





辛い事を全て、『フッチくん』に押し付けて……。





「ごめん、なさい。」





それでも、忘れてしまいたかったの。

だから、忘れてしまったの。

こんなひどいわたしを、慰めたりしないで。



それでも、夢の中でまで、『フッチくん』はわたしを慰める。

とても、とても、優しい人だから――。



止まらない涙を、あきらめて、わたしは両手で顔を被った。





わたしは、どこから来たの?



――とてもとても遠い場所から。





何をしてたの?



――何もしていなかったの。





なぜ、泣いているの?



――ただ、涙があふれるから。






暗い部屋。

窓もない、船の一室。

それなのに――。

わたしを慰めるかのように、一陣の風が頬をかすめたように感じられた。

気のせいのはずなのに、どこか気のせいにしきれなくて、わたしはどこか嬉しくて、また、涙がこぼれた――。






『ビッキー。終わらせてきたよ。……おれの手で。……だから君は、何も気にしなくていいんだ。』








【END】



幻想水滸伝強化期間 第2作目です。(ホッ…)


「変わるものと変わらないもの」にリンクした話になってしまいました。
それに、「戦いの後…」にも、かな?
矛盾しまくりの、自己満足型小説…。
そんなのばっかり…汗。



(05.08.27)




BACK