085.約束の続きです。





「こんにちは、ジーンさん。」

「あら、来てくれたのね。カナイ君――。」



091.電撃



「ここはまた、明るい雰囲気のお城ですね。」

店を臨時休業にしたジーンは、カナイを連れ立って、デュナン湖のほとりに建つ、同盟軍の本拠地を散歩していた。

「ええ。軍主さんの性格の所為かしら……。とても、楽しい方ばかりが集まっているのよ。」

キョロキョロと、本当に楽しそうに周囲を見渡すカナイを、微笑ましく思いながら、ジーンは見つめていた。

ちなみに、これ以上ないくらいに整った外見を持ち、同盟軍1の美女として名高いジーンと、その隣に立って、全く遜色ないカナイの華麗といっても過言ではない容貌があわさって、すれ違う人々は時間を忘れて見惚れ、声をかけたいと思うものも数多くいたが、その迫力に気おされて、実行できるものはいなかった。

しかし、それも2人にとってはいつものことであるので、全く気にもとめていなかった。

ところが――。

「ジーンさん! 今日は臨時休業って出てたんですけど……、お散歩ですか?」

この城で、たった一人、そんな雰囲気を全く気にしないのか、それとも、気付かないだけなのか、つわものとしか言い様のない軍主がめずらしく庭を歩いているジーンに駆けよってきた。

「あら、軍主さん。ええ、店に用がありました?」

無邪気に近づいてくるリオウには、カナイとの2人の時間を邪魔されたとはいえ、ジーンはいつもどおりに妖艶に微笑んだ。

「あ、……と……。すいません。そうじゃなくって……。」

えっと、えっとと慌てている軍主の様子を見て、カナイは微笑ましくなってニコニコと笑っていた。

そのカナイに漸く気が付いたように、ポカンと一瞬間の抜けた顔をしたリオウは、次に、ペコリと頭を下げた。

「すいません。お話中……、それで、あの……、ジーンさんに、紋章のことでお聞きしたいことがあったんですけど……。」

ちらりと、城の上部へと続く階段の方へ視線を向けたリオウに気付き、カナイは苦笑した。

部外者は立入禁止区域なのだろう。

「ああ、ぼくはかまいませんよ。ジーンさん。この辺、勝手に回ってるから、後でよかったら、また付き合ってくれますか?」

「ええ、もちろんですわ。」

「すいません。そんなに時間はとらせませんから!」

リオウは元気よくそう言うと、ジーンの手を引いて、無邪気に城の中へと消えていった。

「……なんか、幼い感じの軍主だな……。」

ポツリとつぶやいたカナイの表情は、優しく微笑んでいた。



それから、少しだけ城内の立入自由区域を散策したカナイは、庭に出て、木陰に寝転んだ。

ジーンなら、何処にいても魔力を辿って見つけてくれるはずだったので、カナイはのんびりと構えていた。

「いい天気……。」

視界に映る空は、雲ひとつない快晴。

春の日差しは強すぎず、弱すぎず、ポカポカとカナイを照らし、眠気を誘う。

(うん。昼寝でもしよっかな……。)

そう考えているうちに、何時の間にかやってきた睡魔に、対して逆らうことなく、カナイはそのまま眠りに落ちた。

…………………。

どのくらい、たったのだろうか……?

カナイの感覚では、小一時間といったところだったが、近寄ってくる2つの気配を感じて瞳を開けた。

ジーンとリオウではない、どこか、カナイに対してピリピリとした空気を向けてくる相手だった。

「……よう。お目覚めか?」

「あ……。」

カナイは目をぱちくりとさせて、すぐ側に立っている人物を見た。

「どっかで、見た顔だよな?」

そういう男の顔にカナイは見覚えがあった。

3年前、トラン湖のほとりにあった解放軍の本拠地で、カナイを不審者としてつかまえようとした、当時の解放軍の幹部。

名前は――。

「おい、ビクトール。こいつがどうかしたのか?」

その男の隣に立っていた、青尽くめの青年が口を開いた。

その青年から感じられる魔力の感じは、雷。

「そうだ、フリック。……ここで、何をしている?」

「……何って、……昼寝、かな?」

素で、そう答えたカナイに、ビクトールの目が鋭くなる。

「ほお、わざわざ、この同盟軍の本拠地にまで来て、『昼寝』とはな。」

「おい、ビクトール。」

おそらく、子供相手に大人気ないとでも言いたいのだろう、フリックが相棒をたしなめる。

「……いいぜ、おれが、屋根のある部屋へ案内してやる。」

剣呑な光をたたえた目でカナイをにらみつけると、ビクトールはカナイの腕をグイッと力任せに引っ張った。

「痛っ……。」

いくら、剣術が強かろうが、見かけよりは力があろうが、カナイの腕はビクトールに比べればかなり細く、力も弱かった。

避けようと思えば、避けられなくもなかったのだが、ここで逃げ出してはジーンとの約束を破ってしまうことになるから、おとなしくしていようと思ったのだが――。

「痛いんだけど……。」

小さく抗議するカナイの言葉など聞かず、ビクトールはぐいぐいとカナイを引っ張る。

連れて行かれる先はおそらく牢屋だろうなと、検討はついたが、後でジーンに迷惑をかけることになるなと苦笑しながら、おとなしく付いていった。

フリックは、全く抵抗しないカナイを、相棒がどうしてそんなに警戒するのか理解できないながらも、ビクトールがそれほどひどいことなどしないと知っていたので、黙って後を付いてきていた。

「……武器を預からせてもらうぜ。」

不意に振り返ったビクトールにそう言われて、カナイは少し思案顔になった。

「……困るんだけど……。」

「やかましい。」

一言でそう切って、ビクトールがカナイの腰の双剣に手を伸ばした。

その瞬間、カナイはパッと身を翻して、ビクトールの腕から逃れた。

「ちっ!」

3年前と同じ失敗をしてなるものかと、ビクトールは腰に佩いていた太刀を抜いた。

フリックは、どっちを止めるべきか一瞬迷った末に、武器を預けるのをためらった見知らぬ少年をひとまず取り押さえることにしたらしく、同じように剣を抜いてカナイに向けた。

そのとき――。

雷の紋章特有の、まぶしい光と共に――。

ドオオオオオオオ―――――。

雷鳴の紋章の最大魔法である、『雷のあらし』が……。

「え?」

カナイが気がついたら、ビクトールはその直撃を受けたらしく、黒焦げになってプスプス言ってて……、そのとばっちり――、にしてはかなりの強さで攻撃を受けたフリックがカナイの前に倒れていた。

「カナイ君。大丈夫かしら?」

そこへ、何事もなかったかのように、ジーンが現れた。

「ええと……、……はい。」

呆然とそう答えたカナイに、ジーンはにっこりと笑った。

「そう。よかった。」

「……よ、く……ね……え……。」

フリックが息も絶え絶えに、足元から声を発した。

「な、んの……つも、り……だ……?」

「あら、わたしの大切な人に手をだそうとしたのだから――。」

当然でしょう? とばかりに、いつもの妖艶な微笑みに加えて、底知れぬ闇を背負った顔で微笑まれて、フリックは、その顔色まで青くなった。

「……ジーンの……、知り合い、なのか……?」

「ええ。」

「……だったら、そう……言え……。」

ガクリと力が抜けたように、フリックはその場に気絶した。

雷魔法の得意な彼に、ここまで雷でダメージを与えられるのは……、彼女1人だけかもしれない。

「さ、行きましょう。」

そう、背中を押されて、カナイは一度だけ、廊下に倒れている2人の青年を振り返ったが、まあ、別にいいかと、そのままにしておいた。

ここは、モンスターの闊歩する平原でも森でもない。

誰かが気づいて、介抱するか、そのうち自分で復活するだろう。

結局カナイは、ジーンと、その日遅くまで2人過ごした。

「そういえば、ジーンさん?」

「なにかしら?」

カナイは、ふと、思い出したように、ジーンに話しかけた。

「ジーンさんは、今も3年前も戦闘に参加されてないようですが、どうしてですか?」

150年前、カナイは魔法力の強いジーンに、今はすでに失われた技術である『紋章砲』においても、通常の戦闘においても、大変に力を貸してもらっていた。

「ふふ……。」

ジーンは、誰もが見惚れる最上級の顔に、これまた最上級の笑顔を浮かべて、カナイに微笑みかけた。

「大切な人のために、力は使いたいのですもの――。」

カナイは、一瞬キョトンとした表情をしたが、すぐに嬉しそうに笑った。

「ありがとうございます。」

そう言って、即答してニコリと笑うカナイに、少しだけ残念そうに、ジーンは笑った――。



【END】




085.約束の続き

またまた、ジーンさんの話し方がわかりません(じゃあ、書くなよ…泣)
そんでまた、軽く流されたジーンさんが憐れ(汗)
頑張れ! こんなとこで声援送ってもねえ…。
紋章の術名、2と4のどっちにしようか迷ったのですが、
地方によってとれる紋章の種類(?)が違うと言うことで…
(真田の幻水でのルール…?)
今後、こういうつもりで行きます〜。



(05.04.18)


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