風を知らない星たち (中編)



壊れた城門前には、いつものようにセシルが立っていたが、その後ろには、ゼクセン騎士団の他のクリスとサロメ以外のメンバー―レオ、ロラン、そしてルイスが立っており、そこから少し離れた位置に、ゲドを除いた12小隊の面々プラス、アイラがいた。

皆、一様に難しい複雑そうな顔をしており、アイラなどははっきりと怒りをあらわにした顔でフッチを睨み付けていた。

おそらく、事の真偽がはっきりするまでは、主だったメンバー以外に知らせる気はないのだろう。

その面々以外に城に住まうものたちは、特にいつもと違う雰囲気は感じられなかった。

ここにいない幹部たちは、おそらく城内の作戦室に集まっているのだろう。

城に辿り付いたヒューゴたちは、まっすぐに作戦室へと向かった。

中に入ると、フッチの予想通り、クリスやゲド、カラヤ族のルシアにビッチャム、リザードのシバにバズバなど、主だった幹部達があつまり、難しい顔をしていたが、フッチに気づくと、大半のものが憎憎しげに顔をゆがめた。

今度こそ、フッチは苦笑いが浮かんだ。

「……なにがおかしい」

それに気づいた、リザードのバズバがフッチをにらみつける。

「いえ、すいません」

フッチは正直に誤まり、頬を引き締め、周囲を見渡し集まったメンバー達を改めてみた。

トーマスは、部屋の隅で所在無さげに、立っていた。

優しい彼は、人を裁くところなど見たくはないのかもしれないが、それでも一応城主の義務としてここにいるのだろう。

メンバーのほぼ中央にいる軍師シーザーの脇にアップルが、他の者達とまた違った、複雑そうで、物悲しい表情を浮かべているのがわかった。

アップルは、フッチと眼が合うと、一瞬口を開きかけ、グッと何かを耐えるように顔をゆがめ、何も言うことなく眼をそらした。

フッチは唇を噛み締めた。

「じゃあ、そろったみたいだし、フッチがスパイかどうかの真偽を確かめるとしようじゃないか」

シーザーが、前置きもなく、扉がきちんと閉じられたのを確認すると口を開いた。

「まず、ヒューゴ、軍曹。2人の話を改めて聞きたい」

「……わかった」

「ああ」

2人が、口を揃えて頷き、先にヒューゴが話し始めた。

「おれは……、フッチ……さんを、捜してたんだ。それで、シャロンに尋ねたら、あの石版の地にいるって聞いて――」

言いながら、ヒューゴは視線をフッチに移した。

静かな怒りを湛えた瞳だった。

フッチは、ここで、ヒューゴがこの戦乱の当初に、親友を亡くしたと言っていたことを不意に思い出した。

直接手をかけたのは、ここにいるクリスだったらしいが、どうやら、それを仕組んだのは、……ルックたちだったらしい。

妙な既視感に見舞われる。

頭が、重く、軽いめまいがした。

「一人で、捜しに行こうとしたら、ちょうど城の前で、フーパーと軍曹に会って、一緒にいくと、言われた」

「無用心だと思ったからな。仮にも、ヒューゴは炎の英雄の名を継いだ者だ。……命を狙われてもおかしくはないからな」

「……で、石版のある丘の近くまで行ったとき、2人の人影が見えたんだ――」

ヒューゴはグッと何かをこらえようとしているのか、握り締めた拳が震えていた。

そして、一気に話し出した。

「最初は、疑ってなかった。フッチさんは、一人だと聞いたけど、誰かと一緒に出かけていたのかもしれないと。話の邪魔をしてはいけないから、そのまま、立ち去ろうかとも思った。でも――!!」

ここで、ヒューゴは、自分を落ち着かせる為に、息を吐いた。

軍曹がたまに捕捉するだけで、他は誰も話に口をはさもうとせず、黙って、ヒューゴの言葉を聞いていた。

「……法衣の色が見えたとき、まさか、と思った。近づいてから、確信した。……あの、ブラス城での戦いの時、真の炎の紋章を奪っていったやつだ……と」

ヒューゴはそこで、口を閉ざした。

しばらく待って、ヒューゴが続けようとしなかったので、シーザーが、質問をぶつけた。

「フッチとそいつの会話は聞いたのか?」

ヒューゴは、ハッしたように、シーザーの方へ顔を向けた。

「……いや、会話は、聞こえなかった。おれが、あいつの姿を確認するとほとんど同時に、そいつは、消えたから……」

「そうか。それで、相手は間違いなく、あの『仮面の神官将』だったんだな?」

「それは、間違いない」

「ああ、それは俺も確認した。間違いはないさ」

軍曹も、同意した。

そうか……と、シーザーはため息をついた。

ヒューゴが話している間、フッチは静かにその話を聞いていた。

シーザーの視線が、フッチに向けられる。

「で、フッチ、あんたはヒューゴの言葉に何か訂正とか、言いたい事がある?」

シーザーの、いつもと変わらない気だるげな様子に、なんか、深刻な話し合いのような気がしないな、とほとんど他人事のように感じながら、フッチは答えた。

「いや。間違いはないよ。……おれが、あの場所で会ったのは……君達の言う『仮面の神官将』だ」

フッチが認めたところで、集まった面々がザワッと騒ぎ出した。

「貴様! よくものうのうと――!!」

リザードの戦士たちは、その直情的なまでの感情をあらわに、フッチに詰め寄ってくる。

他の者達も、心情的には同じなのか、特に止めようとはしていなかった。

ただ、アップルと、そしてルシアは、違う反応を示した。

「まあ、待て、バズバ。まだ、話は終わっていない」

「……ええ、バズバさん、デュパさん。どうか、落ち着いてください」

そして、アップルはフッチの方を向くと、すがるような瞳で言葉をつづけた。

「お願いだから、フッチ。そんな自分に不利になるような事ばかり言わないで。……あなたは、何か黙っているでしょう?」

「……そうだな、フッチ。お前が、このような場であっさりと罪を認めて、断罪を受ける珠ではないことを、私もよく知っている。だが、言うべきことを言わずして、すませてやるほど、われらは甘くはないぞ」

言い方も、口調も、表情も、違う二人の女性の言葉だったが、どちらもフッチが処罰されるべき人間では、スパイになるような者ではないと、信じていることがわかった。

周囲の者が、憮然とした納得のいかない表情を浮かべるのを、フッチは視界に映していた。

「お前は、今、われらの言う仮面の神官将に会ったと言ったが、自分では、誰に会ったつもりだったのだ?」

ルシアの続けた言葉に、フッチはやはり鋭いなと思った。

他の者達は、ルシアの質問の意図がわからないようで、何かを言いかけたところを、ルシアに制された。

ルシアは、一瞬も眼をそらすことなく、フッチを見ていた。

「……おれは……」

言いかけて、口を閉じる。

まだ、完全には心の準備ができていない自分が、悔しかった。

本当に、自分は昔のまま、一歩も成長していないのだと感じさせられる。

ルシアは、黙って、フッチの言葉を待っていた。

「『風』に、会った……」

意味がわからん、とほとんどのものが顔をゆがませた中、アップルが、息を呑み、小さく悲鳴をあげるのを、フッチは聞いた。



【To be continued】



書きたかったのは、いまだ煮えきらず、苦悩するフッチ。
それを理解して、温かく(?)見守る仲間たち。

ルシア母さん好きです。
もっと、かっこよく書けたらいいのになあ…。

アップルは…、立場的には好きなのですが、
Tのイメージがなぜか強すぎて……(苦笑)




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