「ダグラスって、お酒好きなの?」

「おう、当たり前だ。……おまえの、『幸福のワイン』、悪くはないんだけど、ちょっとばかり、物足りないんだよな〜。ま、お子さまに言ってもムダなことだな。」

そう言って、ダグラスは、笑いながらエリーの頭をくしゃくしゃっとかき混ぜた。

エリーは、お子さま扱いされて、少しだけムッとしたのだ――。





口は災いの元…?





「お酒、お酒……と……。うーん、ありきたりのしかないなあ。」

ため息をつきながら、読んでいた『酒造の行程』をパタンと閉じた。

ダグラスに、お子様扱いされた次の日、悔し紛れにダグラスをアッと言わせるお酒を造ってやろうと思い、工房にある本や参考書を洗いざらいさらってみたのだが、どうも結果は思わしくなかった。

エリーの作れるお酒といえば、『幸福のワイン』『ヘビのお酒』『冒険者のお酒』ぐらいで、どれもすでに一般的に知られすぎていて、面白くない。

確かに甘いお酒が好きなエリーは、ダグラスら、お酒好きの人間にしたら『子供』と思えるのかもしれない。

だが、『飲まない』のと、『造れない』のは違う。

エリーを『強い酒が飲めないから子供』と区切ったダグラスを、アッと言わせるような酒を造って、訂正させる。

「ぜったい、後悔させてあげるんだから!」

エリーはそう決心すると、本を片付け、工房から飛び出した。

行き先はアカデミーの校長の図書室。

そこに行けば、きっとエリーの知らない『お酒』に関する参考書があるはずだ。

「よおーし!」

エリーは気合をいれると、アカデミーへ向かって歩き出した。



「……これも違う。えーと、これも……。」

かれこれ小一時間もたった頃だろうか、エリーはまだ思うような本が見つけられず、図書室にいた。

「エルフィール。……何を探しているのです?」

「あ、イングリド先生!」

何時の間にか、エリーの後ろには、イングリドが不思議そうな顔をして立っていた。

「……いえ、その……、お酒の――。」

「お酒?」

「は、はい!!」

造ることを前提に本を探していたエリーは、正直に答えてから、「まずったかな〜」と思った。

少しばかりバツの悪そうな顔でうつむいたエリーを見て、イングリドがため息をついた。

「別に怒りはしませんよ。……そうね――。」

言いながら、イングリドはエリーには手の届き難い場所に置いてあった本に手を伸ばした。

「この辺だったと思うのだけれど……。」

言いながらイングリドが引っ張りだした一冊の本は、『銘酒探訪の旅』――。

「……これは?」

「私……が、昔使っていた本です。かなり高度な調合ばかりが書いてありますが――。エルフィール、今のあなたになら、きっとそれ程難しくないはず。」

「イングリド先生!」

「それから、この本にあるお酒に必要な基本調合です。」

ふう……、とため息をつきながら、サラサラっと紙にいくつかのアイテムの造り方をめもり、イングリドはエリーにそれを手渡した。

「ただし! 飲みすぎて問題など起こさないように!!」

「はい! ありがとうございます!!」

嬉しそうに、満面の笑みを浮かべて返事をし、図書室を出て行くエリーを、イングリドは苦笑しながら見送ったのだった。



イングリドが特別に貸してくれた本を、大事そうに抱えたままエリーは工房へと戻った。

工房のドアを閉じるとすぐ、調合台に座り、本を開く。

「えーと……。わあ、すごい――。今まで、聞いたことないお酒が一杯〜〜。」

エリーは嬉しくなり、夢中で読みふける。

そうして、おもむろに立ち上がると、器具を用意し、イングリドに教えてもらったアイテムをまず調合し、そして、目当てのお酒の調合に取り掛かった。



調合をはじめてから数日後――。

「できた!」

エリーの手の中には、何度も試行錯誤を加えた、上質なお酒があった。

「えへへ……。えーと、名前は――。」



『誘惑のカクテル』

『竜ごろし』