「マリーさん! 私も一緒に、連れて行ってください!!」

アニスは、工房に戻ってきたマリーが早速旅支度を始めるのを見て、エリーを助けに向かうのだと気付き、言い出した。

「ダメ。」

「でも!! 私の所為で――!!」

「……そういう考え方、私は嫌い。」

さっくり言われた言葉に、アニスは少し傷ついた顔をした。

「……マリーさん。……私、足手まといですか?」

上目使いにそう言われて、マリーはため息をついた。

「正直に言うと、そう。」

「……そう、ですか……。」

アニス自身、自分の力量はよくわかっていた。

だから、エリーが自分を庇ってくれ、その時、エリーのために、何もできなかったのだ。

「マリーさん!! いくらなんでも、お嬢さまに失礼です!!」

2人の話を聞いていたサイードが、マリーにわめく。

そのサイードの顔は、見事なまでに腫れあがっていた。

誰が言わずともわかる。

……ダグラスに殴られたのだ。

「……うるさい、役立たず。」

そういわれて、サイードは、グッと言葉に詰まった。

確かに、冒険者として雇われて、雇い主を守りきる事ができずに、おめおめと逃げ帰ってしまったのだ。

ダグラスからの一撃も、ダグラスとサイードの力量の違いから言って、結局、避ける事はできなかっただろうが、避ける気も起こらなかった。

いくら、アニスを守るためには仕方なかったとはいえ、マリーにそう言われても当然の事だった。

マリーは、そのサイードから視線を外し、アニスを見る。

アニスは、必死で涙をこらえているように見えた。

何もできない自分が、悔しくて、悲しくて仕方が無いのだろう。

アニスの気持ちがわからないでもなかったが、危険と解っているところに、力量の足りないアニスを連れて行くわけには、絶対にいかないのだ。

マリーは、すっかり落ち込んでしまったアニスの肩を、ポンと叩くと、ニッコリと笑った。

「あなたは、エリーが帰ってきたときに、ここで、『おかえり』を言ってやってちょうだい。」

その言葉に、アニスはハッとしたような顔をし、クシャッと顔をゆがめ、何かを言うために口を開いたが、結局言葉が見つからず、ただ、コクンと頷いた。





「じゃあ、出発するわよ。準備はいい?」

マリーは、そこに集まった面々に向かってそう言った。

熟練の冒険者であるルーウェン、ミュー、そして、マリー……。

見送りに来たノルディスは、マリーに薬類と爆弾類を渡した。

ディオとクーゲルからも、食糧など、日用品的な差し入れをもらった。

そして、アイゼルは……。

「マリーさん、私も行きます。連れて行ってください。」

「え?」

「道具を有効に使える人間が、一人というのは、少し厳しいと思うんです。……これでも、エリーと一緒に、かなり冒険の経験はあります。」

ノルディスが隣で、複雑そうな顔で笑っている。

おそらく、ノルディスは、アイゼルを危険なところに行かせたくないと思っているのだろうが、何分、アイゼルの方が冒険者としてのレベルが上なのだ。

そういえば、飛翔亭に集まったとき、アイゼルはものすごく真剣な顔で何かを考えているようだった。

そのときから、行く事を決めていたのかもしれない。

じっとマリーを見つめる緑の瞳を、マリーも見返した。

たしかに、アニスよりは頼りになる感じがする。

「……かなり、危険よ?」

「承知の上です。」

「……この人数じゃ、守れないかも……。」

「守ってもらおうなんて、思ってはいません。」

きっぱり言うアイゼルに、マリーは苦笑した。

「……わかった。」

アイゼルの意志がかなり強固であることを、マリーは理解し、了承した。

そうして……。

「……あんたも行くのよ!」

ビシッとマリーが指をさした先には……。

「え!? おれですか??」

サイードが驚いたような叫びをあげた。

「あたりまえ! 戦力には期待してないけど、道案内くらいには、なるでしょう!?」

見も蓋もない言葉だが、おそらく、いないよりはましくらいの勢いで、アイゼルの安全を少しでも高くしておきたかったのだろう。

ルーウェンとミューがこそっと笑った。

マリーの意図がわからないサイードは、慌てたように声をあげた。

「おれには、お嬢さまを守るという……。」

「サイード!」

ここで、アニスがサイードをにらみつけた。

「ザールブルグで、私に何がおきるというの!? 行かないなら、二度と口なんか利かないから!!」

アニスの必死の形相と、声に、サイードは、たじたじにながら言われた内容を理解すると、泣き出しそうな顔をした。

「お嬢さま〜〜〜。」

「どっちなの!?」

「行きます! 行かせて頂きます!!」

……………。

多少、情けないような気がしたが、周囲の者たちは、見なかったことにしたのだった。



総勢で5名は、一路、ドムハイト王国へと出発した。

「……ハレッシュがいたらよかったんだけどな〜。」

マリーのため息交じりの言葉に、ルーウェンが苦笑する。

確かに、ハレッシュの力は、多分、この中で一番優れている。

「ハレッシュなら、クラッケンブルグで見かけたけど……。そこまで行ってる時間が惜しいな。」

「何〜!? あいつ、クラッケンブルグにいるの? ……国境に向かってないかな?」

「ムリだろ。フレアさんを一人にして、わざわざ頼まれもしないのに、盗賊退治になんか来ないさ。」

「……たしかにね〜。誰かの依頼とか、エリーのことを知ってたら来てくれるだろうけどね〜。」

ミューも、ルーウェンの言葉に同意する。

アイゼルも、ハレッシュのことは知っており、無言でうなずいている。

ただ一人、サイードは、誰のことかわかっていないらしく、首をかしげているが、マリーには説明する気は全くなかった。

まあ、ルーウェン辺りに聞けば、すぐわかることだが。

「……仕方ないか……。」

おそらく、先に進めば、ダグラスとも合流できるはずだから、盗賊団を殲滅させるだけなら、そのメンバーでも十分だとは思う。

相手が、普通の盗賊団であるなら……。

けれど、エリーを安全に、かつ、効率よく救い出すために、そして、万が一、相手が普通の場合でない場合に備えて、もう少し戦力をそろえたかったのも事実。

しかし、戦力をそろえるより、それ以上に、時間が惜しかった。

こうしている間にも、エリーの身に何も起こっていない保障はどこにもないのだ。

マリーは、もう一度ため息をついた。



【To be continued】



(05.06.13)


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